下克上計画の無惨な最後
大阪の仕事は午前中に終わり、早めに昼食をごちそうになると、僕は午後の新幹線で東京に戻ることにした。
もっとも、途中で栗本をシメにいかないとならないので、のぞみにはのれない。
ひかりで、弟の工場がある某県についたのは3時前だった。
普通の列車で15分ほどで、工場のある駅についた。
駅には栗本が自分の軽自動車で迎えにきてくれていた。
「え~。円さん。きょ、今日はまたなんで?」
「いや~。大阪の出張で疲れたから、若い女性に癒してもらおうと思ってさ。」
「ははははは。それって私の事ですか(^_^;)?」
「いや別に。井上さんだっているでしょ?」
井上さんというのは、派遣会社から派遣されている女の子でまだ21とかである。
「そ、そうですね。ははははは(^_^;)?」
工場につくと、工場長に新大阪でかったお土産を渡し、工員のおやつにでもして下さいと頼んだ。
「私は工場内で仕事があるんで。事務所の方で休んでいてください。」
「うん。そうさせてもらおうかな。」
「栗本シメるんですか?」
「真実ははっきりさせないとねえ。」
工場の事務所に入り、栗本のとなりのデスクに腰をおろすと、井上さんがお茶をいれてくれた。
「はじめまして井上です。」
まだ十代といっても十分通る童顔で、栗本よりもずっとかわいい。
「いつも弟がお世話になっています。」
「いえいえ(^_^;)私なんて派遣ですから。」
「でも栗本さんがやめたりしたら、井上さんにやってもらわないとならないし」
「え?」
栗本がいきなり変な声を出した。
「な、なんで私がやめるんですか?」
「やめたりしたらっていったんですよ。それともなんかやめる予定でもあるの?」
僕は、栗本を見て言った。
井上さんは笑いをこらえていた。
「い、いや、別に・・・・」
「そういえば井上さん」
「はい?」
「ちょっと不思議な話をきいたんですけど。」
「はあ。」
「ここでは、なにやらこの前、栗本さんが東京に来たときに、私がプロポーズしてきたので、栗本さんはそれを断って、戻ってきたという話しになっているとか?」
栗本は机にすわったままうつむいた。
僕と井上さんは、半ば笑いながら、それを見ていた。
「はい。そう聞きました。」
「ふ~ん。で、井上さんはどう思います?」
「どおって。私は円さんとは会った事ないし、栗本さんがそういうならそうだったんだろうなって。」
「なるほどねえ~」
僕は栗本を見た。ずっとうつむいたままだ。
その時電話がなった。
取ろうとする井上さんを手で制して、僕は栗本に「電話とれば?」といった。
栗本が電話をとり、得意先のオーダーをうけはじめた。
同時に僕は「ガサ入れだ!!」と言って、栗本の引き出しをあけた。
お菓子と一緒に伏せた写真立てと携帯があった。
僕が栗本の写真立てと携帯を取りだすと、栗本は電話をもったまま「あっ」といった。
僕はそれをもったまま、栗本の向かいの、井上さんの横に席をうつした。
栗本はこちらを見たまま、オーダーを受けている。
「井上さん。写真立てが引き出しにしまってあったんだけど、普通これは机の上においてあるものじゃない?」
「はい。いつも栗本さんの机の上においてありますよ。さっき円さんを迎えにいく前に机にしまいましたけど。」
栗本は、僕と井上さんが話しているのを、泣きそうな顔で見ている。
「どのくらい前からおいてあるの?」
「え~と私が来てからだから、2ヶ月くらい前ですかね。」
「じゃあ東京いく前だ。」
「そうです。」
僕は写真立てをひっくりかえして、写真を見た。
栗本と同じくらいの歳のヤンキーっぽい雰囲気の男の子がうつっている。
「お兄さんですかねえ?」
「返してくださいっ!!」
電話を切った栗本が僕に言った。
「栗本!!」僕は厳しい口調で言った。「すわれ!!」
栗本は一瞬でおとなしくなると椅子に座った。
「栗本!!この写真の男は誰だ!!お兄さんか?」
栗本は黙っていた。
「言えないのか?じゃあ、私がいってやろう。この男は、出入りの宅配業者だ。違うか?」
「くっ・・・」
「何がくっ・・・だっ!!貴様、本社の監察部を騙せると思っていたのか!!」
「あの~円さん?」井上がうすら笑いをうかべながら言った。
「本社に監察部なんてあるんですか?」
「ない。が、ある」
「どういう事なんです?」
「公式には存在しない。だが、私は日本国内のみならず、中国にも多数の情報提供者を抱えている。オヤジが中国でエロサウナや、カラオケいったばあい、私が日本にいてもすぐわかる。もちろんこの会社にも情報提供者を潜りこませてある。たとえば、前の工場長が、パートの工員のおばちゃんとできてしまい家庭崩壊にいたったことも、そのおばちゃんが、やはりパートの19歳の男の子と工場長の二股をかけていたことも私はしっているぞ!!」
「そ、そんな事が?」
「そう、この私の極秘情報網を、我が社では監察部と呼ぶのだ。私がやりたくない仕事をやらないですんでいるのは、オヤジがこの監察部の恐ろしい情報収集能力を知っているからなのだ。私を不機嫌にさせると、一瞬で家庭が不穏な空気につつまれるからな!!」
「す、すごい!!うちの社長に関する情報はないですか?」
井上が急に真剣になって言った。
「何故だ?」
「その情報で、隔週二日のお休みを、週休二日にしてもらおうと・・」
「残念ながら、そこまでインパクトのある情報はないな。ヤツは用心深いから」
「ダメかあ~」
「円さん。そんな話はどうでもいいから、その写真返して下さいよ。」
栗本がちょっとふてくされた顔で言った。
「バカ者!!キミは今、監察部の査問を受けているのだ!!いいか、栗本。お前はこないだ東京に来たときに私がいきなりプロポーズしたけど、断って帰ってきたとか言ってるだろ?」
「・・・・・・」
「本当の所はどうだったか、言ってみろっ!!」
「・・・・・・」
「じゃあ私がいってやろう。井上裁判長。聞いて下さい。こいつは、会社に来るなり、『円さん!!私をお嫁にもらって下さい!!』といきなりオヤジの前で頭を下げたのです。」
「違います(>_<)!!」と栗本。
「え?話がちがいますよ!!っていうか私、裁判長?」と井上。
「こんな写真をデスクに飾っている癖に、他の男に親の前で『お嫁にして下さい!!』ですよ。監察部査問委員会は、この場にこの写真の男を呼び出して、栗本の尋問を続けたいと思います」
「呼ぶんですか?」
井上さんが楽しそうに言った。
「そうです。この携帯の発信もしくは着信記録を見て、いちばん多く記録がある男から順に電話していきましょう。私が電話するのもなんなんで、井上さんお願いします。」
「やめてくださいっ!!」
栗本があせりだした。
「じゃあ罪を認めろ。お前はこの宅配業者とつきあいはじめてプロポーズされた。だが、果たして自分はこの相手と結婚していいのか?と疑問を抱いた。そこで、私がまだ独身であることを思い出し、ここは一世一代の勝負。負けたらこの男のプロポーズ受け入れればいいしと、下克上計画をたて、実行に及んだ。それで間違いないな?」
「くっ・・・」
「栗本さん。ばれてますよ。認めたほうがいいです。」
「井上裁判長。栗本には他にも犯罪疑惑があります。」
「え?」
「栗本池袋ウエストゲートパークナンパ待ち疑惑です。栗本は親御さんから、仕送りをしてもらい東京の短大にいっていた間、ヒマがあると池袋のウエストゲートパークでナンパ待ちしていたようです。まずこちらの疑惑から親を呼び出し追求しましょう。自宅の電話番号は、携帯からすぐ見つかるでしょうから。」
「親もですか?」
「井上裁判長。私もそんな事はしたくありません。ですが自分から罪を認めない以上、徹底的に追求しなければ。おっ。XXXX-XX-XXXXこれが自宅の電話番号だ」
僕は栗本の携帯から自宅の電話番号を発見した。
個人情報保護法はこのころないもんね。
「さあ、栗本。どうする。おとなしく罪を認めれば許してやるぞ?今は私と井上さんの二人だけだ。ここで罪を認めても、井上さんに袖の下おくって、皆に黙っていてもらえば、彼氏にも、私は社長のお兄さんのプロポーズ断ってあなたと結婚するということができるぞ。だが認めなければ彼氏に電話かけて言っちゃうから、ボコボコにされてもしらんぞ!!」
「く、栗本さん。ここは認めましょう。認めた方がいいですよ。本当の事なんだし。円さんが携帯の通信ボタンを押すだけで、せっかくの結婚は破談になり、彼氏からはボコボコにされて、親の信用まで失うかも知れないんですよ!!私、いいませんから。やぱり社長のお兄さんです。社長よりワルです。人間じゃなくて悪魔なんですよ。下克上計画なんて最初っから無理なんです。」
「・・・・・・・」
栗本はうつむいたままだった。そのままで言った。
「わかりました。認めます。すべてその通りです。認めるから写真も携帯も返してください。」
「井上裁判長。宜しいですか?」
「はい。返してあげて下さい。」
僕は栗本に携帯と写真立てを返してあげた。
「井上君。こうして同僚や、上司の弱みを握ることが、己を有利な立場におく秘訣だ。おぼえておきたまえ。」
「はい!!監察部長!!」
こうして、また一人、新たな魔女系が生まれた。
その後、栗本は、井上さんも乗せて、僕を最寄り駅ではなく、新幹線の駅までおくってくれた。
僕も夕食を、地元では有名な料亭の支店で二人にごちそうしてあげた。
だがそれはひどく居心地の悪い事となった。
先日弟が、お客さんと一緒にいって、おいしかったというのでいったのだが、どうも地元企業の部長なんかが課長を誘って仕事上の密談をしたり、接待に使う店だったらしく、十代にみえる井上をつれた僕等はエラく目立った。
「これじゃ援助交際のオヤジだよ・・・」
流石の僕も悲しくなるくらいだった。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
話が長くなったが、その栗本が電話してきた訳だ。
「円さ~ん。元気ですか」
「あんまり元気じゃないね」
「そんな事、言わないでくださいよ~っ。円さんまだ独身ですよね?」
「だからどうした!!」
「私をお嫁にもらってくださいよ~」
「キミは結婚しただろ?宅配屋の男と。」
「やっぱ失敗でしたあ~っ。」
「離婚したのか?」
「してません」
「じゃあ、二人で仲良くやれっ!!宅配屋は将来有望だ。これからの日本は高齢者社会になって、スーパーで買い物しても、持って帰れない爺さん婆さんばっかになるから、絶対日用品購入も宅配経由になるぞ」
「無理です。宅配屋だって、そういう事は本社がやるんです。配達員は一生配達をして、終わるんですよ~。子供の幼稚園代が必要なんです。結婚してください~っ」
「なんでオレが、お前と宅配屋の旦那の間に生まれた子供を幼稚園にやるために、お前と結婚せにゃならんのだ?」
「だって28になったら来なおせ!!って言ったじゃないですかあ~」
「独身ならだろ?金が欲しければバイトしろ!!バイト」
「しましたよ。」
「何を?」
「牛乳配達」
「はあ?牛乳配達?そんなのまだあんの?」
「な、ないんですか?東京には?」
「子供の頃はあったけど、最近は見ないなあ。大体コンビニどころかスーパーも24時間であいてる所あるんだから、牛乳配達意味ないし。」
「他にもやりましたよ」
「何を?」
「コンビニ店員」
「立派な職業じゃないか。日本ではいちばんメジャーだ。しかもスーパーのレジ係より格好いい感じがするし。」
「そんなことないですよお~。私やってみてわかったんです。私は人様に頭をさげてモノを売る才能はないって。」
そりゃ、前の仕事は、電話でオーダー受けて、電話で出庫かけて、あとは伝票あげるだけだったけどな。
「社長に復職させて下さいって頼んだんですけど、すでに元ヤンの先輩が離婚して戻ってきてるからダメだって言われたんです~っ」
そりゃ、そうだ。彼女は仕事も良くやってるし、レディースあがりなので、自分にも厳しい。
立派な不良こそ立派な社会人たりうるという見本のような女性なのだ。
それにひきかえ栗本ときたら(-_-)
「お願いです。社長に頼んで下さい。」
「まあ、それは無理な話だけど、キミクワガタ飼う?」
「え?」
「弟は、中国からクワガタもってきて育ててネットで売るらしいよ。だからクワガタブリーダーになればいいじゃん。」
「い、いやですよ!!私ムシきらいだし!!クワガタもゴキブリも似たようなもんじゃないですか。」
「でも人に頭下げないでいいじゃん。子供だって喜ぶだろうし。」
「そういう問題じゃないです。あ~ん。マジメに考えてくださいよ~っ。元婚約者じゃないですかあ~。」
ちょっとまて、いつ僕がキミの婚約者だった事がある?
「う~ん。じゃあちょっと考えてみよう。」
僕は電話を切った。
もちろんそんなことを真剣に考えるつもりはなかったので、すっかり忘れたまま一ヶ月が過ぎた。
そんなある日、僕が自宅で本棚の整理をしていると、二冊の本が目についた。
友人が書いたアフィリエイト本だ。
うん、これなら栗本もパソコンさえあれば、幼稚園代くらい稼げるかもな。
人によっては30万とか稼ぐ人もいるそうだし。
僕は手紙を書いた
「栗本さん江
私の友達が書いたアフィリエイト本です。アフィリエイトというのは、自分のHPやブログに広告をのせて、お金を稼ぐお仕事です。彼女の友人には月30万稼いでいる人もいるそうです。まあ、そんなのは無理にしても、幼稚園代くらいは出るかもよ。とりあえず、頭をさげずにすむ仕事でしょうから、頑張って下さい。かしこ」
こうして僕は、またもや離婚の危機に直面した家庭を救ったのである。
多分・・・・・・・
The end.
see you (^_-)
次回の更新は9月12日(の予定)
いや、学生時代、宿題は8月末に一気にかたづけてたんで、今でも8月末から9月の頭は鬱になるんですよ。マジ・・・・