中国に真実の愛はあったか?(1)
90年代後半の中国での物語(多分3割の真実に7割の脚色バージョン)
90年代の前半に、僕が派遣されていた工場が中国でもまっとうな製品が作れるということを証明すると、業界他社も続々と工場を中国に移転させてきた。
その状況の中で思わぬ幸運を掴んだ人物がいる。
僕が工場を稼働させるときに、副原料の担当者として一緒に立ち会ったサクちゃんだ。
サクちゃんといっても、僕より10歳は上だから、もちろん本人のいる所では、長幼の序をわきまえた礼儀正しい僕は「佐久間さん」と呼んでいる。
だが、本人のいない所ではサクちゃん。
別にバカにしているわけではない。
人柄の良い彼は、皆からサクちゃんサクちゃんと慕われているのである。
僕もサクちゃんは大好きだ。
変に肩に力のはいっていない彼は、一緒にいて肩が凝らない男なのである。
アホなのか狡猾なのか判断がつけがたい中国人とのやりとりの後、サクちゃんと一緒に食事なんかをしていると心底くつろげるのだ。
で、このサクちゃんが思わぬ幸運を掴んだ顛末。
原料は中国にあり、工場も2年ほどで以前の5倍の数になった。
だが副原料がなければ製品はつくれない。
そして副原料は、どの工場も日本から輸入していた。
工場が5倍になるということは、原料も副原料も5倍となるということだ。
そして工場は更に増えそうだった。
しかも重要な事は、これまで原料しかもっていなかった中国人が、工場を持ち始めようとしているということだった。
以前中国以外のところで生産していた連中は、中国に工場を移しても、副原料は前から取引のあったところを使う。
だが、そういう関係の無い、中国人の工場はどこから副原料を仕入れるのか?
ここにウチの取引先である中国の会社と、その代理店をやっていた僕のバカ親父、それにサクちゃんのところの社長が目をつけた。
副原料工場を中国にたてて、この急速に拡大する中国マーケットのシェアをがっぽり頂こうというのである。
試算をしてみると、日本から輸入する1/3で生産できる事がわかった。
副原料の生産は、決して難しいものではなかった。
現地の従業員を訓練する必要もほとんどない。
工場を稼働させるのに、最低でも1ヶ月は訓練をさせなければならない僕等とは大違いだ。
生産は極端に言えば、建物と設備さえあればできる。
三社が話し合いの末、日本円にして8桁の資本の工場ができた。
サクちゃんはそこの副社長になったのだ。
サクちゃんの親会社も資本金は8桁だが、8桁前半だ。
子会社のサクちゃんの資本は親会社の3倍。
満面の笑みを浮かべたサクちゃんは僕にこういった。
「ウチは同族企業だから、オーナー一族でない人間が出世できるのは、子会社の社長止まりです。嬉しいですよ。」
だが、サクちゃんの幸運はそれだけではとまらなかった。
1年後、日本の商社がこの事業に目をつけ、出資を申し出たのだ。
工場はその他の会社とも一緒になって集団公司という形態になったが、資本金の額も日本円にして10桁になった。
そして、その会社でも、サクちゃんは日本側の代表として副社長でありつづけたのだった。
そう、資本金8桁の会社の課長だったサクちゃんは、2年で資本金10桁の会社の副社長になりあがったのだった。
ビバ!!チャイニーズドリーム!!
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
5年間の中国在住生活を終えて3年後。
僕はサクちゃんの会社がある、中国南部の街に来ていた。
ここには親父が代理店をしている中国の会社もある。
この会社が日本から受注した製品の生産立ち会いをするのが、その時の僕の仕事だった。
やってきてすでに一週間。
原料の状態も良好で、工場側のよい物を作ろうという熱意も半端ではなく、仕事はきわめて順調に進んでいた。
仕事を終えると、親父が現地事務所として年間契約しているホテルの部屋に戻り、日本からもってきた本を読み寝た。
この部屋は、ホテルフロアの最上階にあるのだが、その上はナイトクラブ&カラオケで、実は夜になると心持ち騒がしい。
サクちゃんの部屋は斜め向かいにあった。
実はこのホテルも、サクちゃんに出資している中国側の会社が保有していて、サクちゃんはスイートルームを年間契約して住んでいるのだった。
サクちゃんの副原料工場は夜の10時くらいまで生産をしており、サクちゃんも帰ってくるのは9時過ぎだった。
僕は自分が中国に住んでいたころの経験から、夜サクちゃんの部屋に押しかけたりはしなかった。
人にもよるだろうが、海外で自分が旅行中で夜ヒマだからといって、毎日居住者である自分の部屋に遊びにこられても迷惑なのである。
とりわけ外国語で1日仕事をしたあとは、部屋に帰ったらじっくり休みたい。
僕も6時に仕事を終えて工場の食堂で幹部用の食事を工場の管理スタッフと一緒に食べると、あとは部屋に帰ってウォークマンで日本の音楽を聴きながら日本の本を読んでいた。
もっとも1日に1回は日本に報告書をファックスしなければいけないので、ファックスのある
1階のビジネスセンターに行くうちに、大連出身の女性マネージャーと仲良くなった。
名札には客室部マネージャー 方愛民と書いてあった。身長は170センチ近くあり、中国の南方ではめったに見かけないタイプだ。
なかなかの美人だった。
「またなんで、大連からこんなとこに来てるのさ。」
「ああ、このホテルは広州に本社があるホテル経営のコンサルタントをする会社が管理を請け負っているの。私はそこからの出向。」
「大連の人間が広州の会社で仕事?中国もグローバルになったもんだね。」
「ははは。会社は広州だけど、スタッフは中国全土から来ているのよ。」
「ふ~ん。」
僕は少しだけガードをあげた。
中国では企業が成功すると、大抵はグループ内でホテルを造る。
そして当然ながら、その企業の関連の客はほとんどそのホテルに泊まる。
中国ではホテルに泊まる時には政府発行の身分証明書を出さなければならないから、ホテルの管理をしていれば、どんな人間がその会社に出入りしているかは一目瞭然。
もちろん宿泊している外国人の監視もできる。
本業はホテルの経営コンサルタントであっても副業がないってことにはならない。
実際僕が中国にすみはじめた時に年間契約していたホテルでは、最初の2年間、従業員が僕の事を、公安の指示で24時間監視してたし。
「こっちと、大連では食事も違うでしょ。」
「そうね~。でも広州にしてもここにしても、基本的に料理は美味しいからいいわね。友達の中には全然口にあわないとこに派遣させられた人もいるし。そういう人に比べれば私はマシ。」
「そうなんだ。」
「あなたはどうなの?日本ではナマの魚とか食べるんでしょ?」
「いや、僕は20代の後半は中国すんでいて、ほとんど毎日中華だったから。それに日本でも餃子とか、ワンタンとかは普通に食べるんだ。戦前中国に住んでいた日本人が、引き上げた時に一緒に持ち込んだから。」
「へえ。そうなんだ。」
「うん。他にも、焼売とか焼豚とか青椒牛肉絲、麻婆豆腐、春巻。普通に家庭料理で出てくるよ。」
「ご両親のどっちかが中国系とかでなくても?」
「うん。中国人は中華しか食べないからびっくりするかもしれないけど、日本人は今日は刺身、明日は中華、あさっては洋食みたいに、いろんな国の料理を食べているんだ。」
「ホントに?信じられない。」
「自国の伝統より、海外の事に関して好奇心が強いからね。日本人は。」
「あ~あ。ここの人に教えてあげたいわ。ここの人達ときたら。」
「しょうがないよ。ここは中国でももっとも保守的な傾向があるとこだからさ。このホテルの親会社の幹部に客家のヤツがいるけど、泣いていたよ。」
「でしょうね。地元の人以外には心開かないものね。」
「そうみたいだね。」
「でもあなたは日本人でしょ?あなたのお父さんも。良く10年近く仕事を続けてられるわね。」
「多分親父がバカだからじゃないかな?それに他の地域の中国人より、日本人の方が信頼できると思っているんじゃない?」
「そうかな~。」
「知ってた?ここの会社では取引先の相手きめんのに、こっそり面相見に面相みさせて決めてるんだぜ。」
「本当?あきれた。あ、お友達が帰って来たわよ。」
振り向くとビジネスセンターのガラス越しにサクちゃんがホテルにはいって来たのが見えた。
サクちゃんも僕に気づいてビジネスセンターにやってきた。
「オカエリナサイ サクマサン。」
彼女がサクちゃんに日本語で声をかけた。サクちゃんも「ニイハオ」と答えた。
「またまた、円さんはこんなところでマネージャーと仲良くなって。」
「文化交流ですよ。」
「ハナ金ですよ。これから上のカラオケいくんですよ。一緒にいきましょう。」
「僕は明日も仕事ですから。もう寝ます。それに私が田舎の中国娘相手に仕事終わってからも中国語で喋るの嫌いなの知ってるでしょ?」
「このマネージャーと話すのはイヤじゃないんですか?」
「ホテルのマネージャーと仲良くしておくのは、仕事の一環です。帰りの飛行機の手配。
混み合ってる時の部屋の確保。どれも大事な仕事ですから。」
「なるほどねえ。じゃあ、明日工場の方にいきますよ。お昼一緒に食べましょう。」
そういうとサクちゃんは会社のスタッフを二人つれてエレベーターの方に向かった。
「カラオケいくんじゃないの?」
日本語でも中国語でもカラオケはカラオケだ。
「勘弁してよ。どこの馬の骨だか知らないおねーちゃん相手に中国語で話すの面倒くさいでしょ。」
「私と話すのは面倒くさくないんだ。」
「ホテルのマネージャーと仲良くしておくのは大事な仕事だからね。」
僕はそういって立ち上がった。
「あなた結婚してないでしょ?」
「うん。」
「カノジョは?」
「いないね。」
そういいながら僕はビジネスセンターのドアを開けた。
「ねえ、私をカノジョにしない?」
僕はふりかえって彼女の顔を見た。
悪びれた様子も、不安げな様子もなかった。
「そうだな~。まあ、考えておくよ。嫌いじゃないけどね。」
そういうとドアを閉め、ガラスの向こうの彼女に手を振り、エレベーターに向かった。
もちろん僕の方もワクワクしたりドキドキしたりはしなかった。
中国で長くくらしたけど、素人の女の子が自分の方から逢ったばかりの外国人に「私をカノジョにしない?」と言ってきたのは初めてだった。
これって恋愛の始まりなんかじゃなくて、ある種の腕試しの宣戦布告なんだよね。
お互いに。
To be continue.
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)
