円海VS触手王(上)
濃密な闇のなか、密かにせまる触手王!!生き残るのは陸の悪魔系か海の魔性か?
ナイトダイビングが好きだ。
ナパームの匂いの次くらいに好きだ。
僕が最初にナイトダイビングを経験したのはオープンウォーターの講習を終え、アドバンスの講習に入った時だ。
その時はインストラクターと我が友チヒロと三人で大瀬崎を潜っていた。
ナイトダイビング。
それはスキューバダイビングの装備を身につけ、真っ暗な海中を各自が水中ライトとコンパスだけを頼りに進む、究極の根性試し(?)
これまでに数々の勇者が突如現れたサメに食いちぎられ、巨大イカに噛みつかれ、トビウオの体当たりで命を落としているというダイビング業界最大の業行である。(注:いうまでもなくまったくのウソです。信じないように)
ともに講習を受ける身分の僕とチヒロは、すでに暗くなった岸辺でインストラクターの説明をうけていた。
「昼間に潜ったのと同じコースですから。まっすぐ沖にでて、崖になった所を降りたら、崖にそって左へ向かい、そのあと水深XXメートルまで沖に出て停止。そこで夜光虫を見たあと崖に戻り、降りたところにもどって崖をあがります。時間は25分から30分。最初のナイトダイビングですから残圧系はできれば手元にもっていて、マメに確認してください。大丈夫だと思うけど、もしダイビング中に残圧が50になったら合図を。」
「あの~。万が一はぐれたらどうしましょう?」
僕は暗い海を見ながら聞いた。
「そのままで1分待って、私が戻ってこなければ浮上。海面に出たら海中にむけてライトを点滅。必ず拾いにいきますから」
「一人で浮上ですか?」
「チヒロ君が一緒にはぐれたらチヒロ君と浮上。」
僕はチヒロの顔を見た。
チヒロは吉田戦車が「伝染るんです」で描いたカワウソのような顔で僕を見た。表情は特にない。
チッ!!女の子と一緒に講習受けるんだったな。
真っ暗な海面を二人で漂えば、愛が生まれるかも。
チヒロとでは生まれようがない・・・・
「崖を降りるときにガンガゼ(ウニの一種)に注意。それとゴンズイ玉。」
ゴンズイ玉というのはゴンズイという毒がある魚が、何匹か群れになっているのを言う。
「円、知ってるか?ガンガゼって夜は泳ぐんだぜ」
チヒロが僕に向かっていい、僕はインストラクターの顔を見た。
彼女はタンクの最終チェックをしている。
「ホタテ貝がパフパフして海中移動するの見たことなるだろ?テレビで。ガンガゼも夜になるとああやって水中を動き回るんだぜ」
「ほ、ほんとうですか?」
僕はインストラクターに尋ねた。
「本当です。」
インストラクターはレギュレーターからエアを出し、タンクとレギュレーターの接続を確認すると、BCとタンクを背負って言った。
「海の中はガンガゼが水中機雷の用に浮遊しています。でも大丈夫。マスクしているから目が潰れることはないですから。せいぜいおでこに突き刺さるくらいです。」
僕とチヒロもBCとタンクを背負いながらその言葉を聞いた。
お互いに残圧系やら、予備のレギュレーターが動くのを確認してライトを点灯させて海に入る。
海水が胸の位置まで来たところで、僕等はフィンを履いてシュノーケルをレギュレーターに変えるよう言われた。
「あ、あの・・・水中機雷のようにガンガゼが飛んでいたらどうすれば・・・」
インストラクターは不思議そうな顔で僕を見た。
「バ~カっ!!ガンガゼが飛ぶように水中を浮遊してたまるか。冗談だよ冗談。」
そういうとチヒロはレギュレーターをくわえぶくぶくと海の中におりて行った。
イントラが僕の顔を見て潜水の合図をした。
畜生!!騙された!!
そう思いながら、僕も二人に続いて海の中に降りていった。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
無事に崖を降下した僕等は砂地に降り立った。
砂地にガンガゼはいなかったが、崖にはあらゆるところにガンガゼがいた。
ここから見ると、まるで針の山だ。
オープンウォーターの講習を終えて半年たっているチヒロと違い、オープンウォーター講習から二週間でアドバンスの講習に入った僕には中性浮力も糞もない。
昼間はこの崖に手をつきながら浮上したが、今回それをやったら手がガンガゼの針だらけになりそうだ。
僕は帰りにここをあがる時にはエアを思いっきり入れておこうと心に決めた。
砂地の上でしばらく停止して、僕等に動揺がないのがわかると、インストラクターは崖にそって進み始めた。
僕も残圧が180あるのを確認してから、インストラクターにつづいた。
中に入る前は恐怖を感じたが、中に入ってみると夜の海はそれほど怖くはなかった。
魚たちもほとんどは岩の間に潜んでいるか、岩に沿うようにして移動している。
丁度満月の時期で、海面を見上げるとほのかな明るさのなか水面が揺れているのがわかる。
聞こえるのは、自分のレギュレーターが紡ぎ出す、規則的な呼吸音だけだ。
緊張でこわばっていた筋肉が急速にほぐれて、体がガチガチだったことに気づいた。
夜の海中は自分が思っていたのとは違っていた。
とても柔らかく、ゆったりした空間だ。
インストラクターが停止して、残圧を確認するように指示した。
そして僕とチヒロが残圧を伝えるとうなずいて、崖から離れて沖にいくことを伝えた。
砂地の上をすすみ、水深が13mになったところで、僕等は停止した。
インストラクターは水中ライトを消すように指示した。
この深度でも、インストラクターとチヒロのシルエットはぼんやりと見える。
背中につけたサイリュウムライトのせいだろうか。
僕が自分の呼吸に耳をすませていると、インストラクターが水中で手をヒラヒラと振った。
何してるんだ?
ヒラヒラヒラヒラと繰り返していると、小さな光の粒が手の動きにそって現れた。
夜光虫だ。
僕もヒラヒラと水中で手を振ってみた。
夜光虫がキラキラと光り消えた。
すばらしい。
まるで魔法使いになったような気分だった。
ナイトダイビング。
いいかも。
すると左手のほうから闇のなかにも明らかな砂煙をたてて、あっちこっちに水中ライトのビームを放つ集団が現れた。
ライトの数で10人くらいとわかる。
その集団がこちらに向かってくるのを見て、インストラクターは僕等にその場にとどまり、彼らが行きすぎるまで待つように指示した。
僕はうなずき、その集団が通り過ぎるのを待った。
凄まじいまでの砂煙で、それまでの静寂はウソのように飛び散り、何も見えなくなった。
そして海が静寂を取り戻したとき・・・・
僕は一人ぼっちになっていることに気づいた(-_-;)
イントラよ。
チヒロよ。
なぜいない(>_<)
僕はゆっくりと60数えながら残圧をチェックした。
まだ100以上ある。
60数え終わっても僕の周囲には誰もいない。
夜の海で迷子になっているよ・・・オレ(-_-)
水中でひとりぼっちだよ・・・・オレ(-_-)
水深は13メートル。
仕方なく僕は水面にむかってゆっくりと一人ぼっちの浮上を開始した。
まさか本当に水中で迷子になるとは・・・・
まっくらな海面に一人浮かび上がった僕は、BCにエアを一杯につめると周囲を見渡した。
海沿いにたつ民宿の光が見えるが、思ったより全然遠いぞ・・・
最悪の場合、一人であそこまで帰らないとならないが大丈夫だろうか?
僕はとりあえず、言われたとおり、水中のライトを下に向けて点滅させた。
あとはやることがない。
僕の頭の中に、不意に光瀬龍の小説を萩尾望都がマンガにした「百億の昼と千億の夜」のワンシーンが思い浮かんだ。
それは海中に数百年にわたり待機させられているシッタータが、海面に頭を出し、TOKYO CITYを見ているシーンだ。
何億年も前には、人間の原型となった海の生き物が、今の僕のように海面から頭を出して陸をうかがっていたのだろう・・・・
そんなことを思っていると、夜の海に一人で漂っている恐怖は感じなかった。
長い長い進化の歴史のなかでは、僕等はついこないだまで、このように海から陸をうかがう生活をしていたのだ。
確かに海は恐怖ではなく、僕等の母だ。
その時、海中に光が見えた。
どんどんあがってくる。
そして僕の目の前にインストラクターが。そして2m程離れたところにチヒロが顔を出した。
「お待たせ」
インストラクターが言い、僕がレギュレーターからシュノーケルに変えているのを見ると、残圧計を手にとって確認した。
「エアは十分あるね。下から戻るよ」
僕はレギュレーターをくわえると、また海の中に戻った。
上を見上げると、月の光をうけた水面が揺れている。
夜の海はいい。
全身にみっちりとからみつく海水は気持がいい・・・・
こうして僕の最初のナイトダイブは終わった。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
それから3年が過ぎ、僕もようやく100本を越えた一人前(?)のダイバーになった。
半分くらいはパラオでのダイビングだ。
ある日ダイビングショップのオーナーが僕に言った。
「円さん。とてもいい話があるんですよ」
「はあ。」
「ダイバーがむやみやたらと、海の生物を捕ってはいけないと言うことは知ってますよね?」
「当然です」
「そう。日本の漁協さんが稚魚や稚貝を放流していたりしてますからね。ほとんどの場合、僕等が潜る所は漁協さんの管理下にあるんです」
「でしょうね。」
「でもですね。とある所に、漁協さんの管理下にない入り江があるんですよ。」
「はあ。」
「なんというか、二つの漁協がお互い権利を主張しているが故に、現時点ではどっちの漁協にも所属してないという場所なんですが。」
「なるほど。」
「今度ナイトダイブをやろうと思うんです。」
「行きます!!」
僕は速攻でこたえた。
「絶対に行きます。ナイトダイブ大好きですから。是非行かせて下さい。こないだペリカンの一番大きいライト買ったばっかりなんで、作動確認しなくちゃならないし。」
「わかりました。では、円さん参加ってことで。他に参加を表明しているのはシュガケン・・」
こうして僕はどこの管理下にもないという、小さな小さな入り江(多分)でナイトダイビングをすることになった。
そこにナイトダイビング大好きな僕を、恐怖のどん底に陥れる触手王が潜んでいるとは知らずに・・・・・
To be continue.
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)
