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2010.08.08

アクマのピグマリオン(9)

窓の外からは、新宿の夜景が見えるこの店。

落ち着いた雰囲気の中、焼肉を楽しむ人々のなかにあって、僕等のテーブルだけが異様な雰囲気につつまれていた。

楽しそうに特選カルビをつまむ若き友人。

それはいい。だが麻雀卓のような正方形のテーブル席の、若き友人のとなりには、異様などす黒いオーラを放ちながら、ドラえもん箸で焼き野菜を食べる姉さん。

そしてその隣には特選カルビを正しい箸の持ち方でつまんでいるものの、視線は母親に釘付けになりっぱなしのひかりちゃん。

その手はかすかに震えている。

こわい・・・・・・なんだかわからないけど、こわいよお~っ(>_<)

 

しかし。

 

もし小さな穴が開いたダムから、水がちょろちょろ流れているのを見つけたら、その穴にダイナマイトをつっこみ導火線に火をつけなければ気が済まないのが僕なのだった。

 

だから・・・・

若き友人が注文した特選カルビの、最後の一枚が焼き上がるのと、姐さんが焼き野菜を食べ終わるのはほぼ同時だった。

姐さんがようやくニコニコして、ドラえもん箸で最後の特選カルビを取ろうとしたとき。

僕はありえないくらいの早さで、その特選カルビをとり、ひかりちゃんの取り皿においた。

「さあひかりちゃん。高校受験頑張ったね。最後の一枚までしっかりお食べ。」

僕がそういうと、ひかりちゃんは姐さん=母親の顔を見た。

もはや姐さんの顔は夜叉のようで、母親の顔ではなかった。

「はは・・・ははははははははははは。」

あまりの恐ろしさに、ひかりちゃんは壊れた。

「ささ、遠慮なく。」

僕はひかりちゃんに再度すすめたが、ひかりちゃんは母親の恐ろしい視線から目をそらせず「ははははははは」と変な笑い声をたてているだけだった。

ええ~いっ!!仕方ない!!

僕は特選カルビを自分の箸でつまむと、そのままひかりちゃんの口に強引に押し込んだ。

「あっうっ!!」

15歳の少女は、無理矢理つっこまれた特選カルビを、勢いでごっくんと呑み込んだ。

「ああ~~~~~~~~~~~っ!!(゚ロ゚屮)屮」

姐さんはありえないくらいでかい声を出して、店にいる全員の注目が一斉に僕等にあつまった。

「あ~あ 特選カルビなくなっちゃったよ( ̄▽ ̄)」

若き友人が面白そうな顔でいった。

「ひ~か~り~」

姐さんがまったく冗談とは思えない、地獄の底から湧いてでたような声を出しながらひかりちゃんを睨み付けた。

「ち、ちが・・・・・円海さんが無理矢理・・・・・」

怯えたひかりちゃんは、思わず責任を僕にふってきた。

「え・ん・か・い~っ」

姐さんは視線をキッと僕に向けると、やはり地獄の底から湧き出すような声で僕の名前を呼んだ。

そのオーラは、先ほどまでの陰鬱なオーラではなくなっていた。

どす黒い赤さでメラメラと燃える、地獄の業火のようなオーラだった。

や、やばい!!たかが肉でここまで怒るとは!!なんとかしなければ!!

 

「なんですか?姐さん」

「え・ん・か・い~っ」

「なんか誤解してませんか?姐さんのお肉タイムは野菜を食べ終わってからと私はいいましたよ?だから姐さんのお肉タイムがはじまる前に、最後の一枚をかたづけたんじゃないですか。」

僕はそういうとウエイトレスさんを呼んだ。

「すみません。網、変えてもらっていいですか?」

ウエイトレスさんが網交換を伝えにいくと、僕はメニューを姐さんに手渡した。

「僕たちは大人なんですから。納得いくまで食べればいいんですよ。でも、ちゃんと健康の事も考えて、野菜を先に食べておかないと。姐さんは食いしん坊ですからねえ。私のこの心使いわかります?」

「そ、そうでしたの?」

「そうにきまってるじゃないですか。なんで私が姐さんを焼き肉屋につれてきて、野菜だけ食べさせるような意地悪しなきゃならないんですか。大人なんだから、冗談か本気か常識できちんと判断してくださいよ。プンプン!!」

「まあ、そうでしたか。そうですわよね。私としたことがつい。」

そういうと姐さんはメニューをめくりはじめた。

「ひかりちゃんはお肉まだ食べます?」

僕はほっとした顔のひかりちゃんに聞いた。

「いえ、私は・・・・」

「じゃあ、ご飯もの食べましょうか?私もそこそこいっぱいだから。石焼きビビンバ食べた事ありますか?」

「いえ、ないです。食べてみたいけど、一つはとても。」

「じゃあ一つ頼んで半分こして食べましょう。」

「はい!!」

僕は網の交換が終わるとウエイターさんに石焼きビビンバと、とりわけようのお椀を頼んだ。

「僕はまだ食べられますよ。え~と、特選ロース一皿下さい。」

若き友人もとりあえず姐さんのおどろおどろしい気配がおさまったので、安心した顔で注文を入れた。

「では私は特選カルビに特選タン塩、特選ロースをいただきますわ。」

「え?」

姐さんが注文すると、若き友人は驚いて姐さんの顔を見た。

そりゃそうだ。一瞬で1.5諭吉。自分が注文した分とあわせて2諭吉・・・・

「えっ?て何? いや、なんですの?なんかいいたいことありまして?」

またもや陰鬱なオーラを放ち出した姐さんに若き友人は黙った。

 

 
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)

 

僕とひかりちゃんが石焼きビビンバを食べている間に、若き友人と姉さんは焼き肉をすごい勢いでたべはじめた。

若き友人は自分が頼んだ分だけでなく、姐さんがオーダーした分も食べた。

特選ロースが来たとき、その見事な霜降り具合に、僕も一切れもらう事にした。

表面を軽くあぶるだけにして、肉が白くなったぐらいで口の中にいれると、特選ロースは淡雪のように口のなかで溶けた。

「ああ、なるほど」

僕は思わず声に出した。

「なんですか?」若き友人が僕に尋ねた。

「この肉、細かく霜降りがはいっているでしょ?だから焼くというよりは、脂身が溶けるくらいの温度に軽くあぶって食べてみた。案の定、口のなかで細かい脂身の部分が溶けて、一瞬で一切れがとけるようにこまかくバラバラになった。いやうまい。私、煮た肉嫌いだからしゃぶしゃぶとか食べないけど、この肉でしゃぶしゃぶとお湯くぐらして食べたら、同じように口の中でとけると思うわ。しゃぶしゃぶってこういう細かくサシが入っているお肉で食べる料理なのかも。」

それをきいた若き友人が、最後の特選ロースを軽く炙って口にした。

「本当だ!!すごい!!」

それを見て、特選カルビをかじっていた姐さんが手をあげた。

すぐにウエイターがやってきた。

「特選ロースを塩で二つ」

「ええっ!!」

若き友人が大きな声を出した。

僕もひかりちゃんもさすがにあきれた。

だが、姐さんの食欲に歯止めをかけることは誰にもできなかった。

 

 

(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)

 

40分後。

僕たち四人は、ハルク内にある喫茶店に入った。

そこには憮然とした表情の若き友人と、笑顔だがちょっときまずい表情をうかべた姐さんがいた。

「一番高いコーヒーと一番高いケーキを下さい。」

お水をもってきたウエイトレスに若き友人が言った。

「私はアイスティーがいいな。」

僕は姐さんの顔を見ながら言った。

「円さん、ケーキもたべましょうよ。ひかりちゃんはフルーツパフェにしなさい。一番高いケーキを二つと、アイスティーと一番高いコーヒーとフルーツパフェに水を下さい。いいですね?姐さん。」

「い、いいですわ。ご馳走になったことですし、私がお払いしますから」

「当然でしょ。いったいいくら食べたと思ってるんです(-_-)」

ひかりちゃんはもってきたバックのなかから、ノートを出してきた。

「何かくの?」

「いえ、大人の方の話には私は加われないので、気をつかわせないようイラストでも描いていようかと(^_^;)」

よくできた子だな。

「あのですねえ。あんまりこういうこと言いたくないんですけどね、7万ですよ7万。」

若き友人が姐さんの顔を見ながらいった。

「でも4人ですから、均等に割れば一人あたりたったの1万8千円弱ですわ。」

「均等に割ればの話でしょ?ぼくがざっと計算したところでは、このうち4万は姐さんが食べてますよ!!」

「ま、まさか(^_^;)私のこの細い体にそんなにたくさんのお肉が入る訳ありませんわ。きっとひかりのお腹のなかに・・・・」

「ひかりちゃんは一番少ないですよ(-_-)」

「では円海さまのお腹のなかに・・・・」

「円海さんだってそんなに食べてません!!」

「・・・・・・」

「だいたい円海さんや、あかりちゃんがたくさん食べても、僕は何にもいいませんよ!!円海さんへのお礼と、ひかりちゃんのお祝いの為の叙々苑なんですから。でもあなたはオマケでしょ?何オマケの分際で一人で4万円も焼き肉喰ってるんです?」

「そんなァ~ 食べてません。4万円も食べてませんよお~」

「この腹で何をいうかっ!!」

若き友人がいきなり姐さんの腹をたたいた。

確かにそこには、セーターにつつまれた、細身の姐さんには不釣り合いなぽっこりしたお腹があった。

「叩かないでくださいまし~。」

「叩くわ!!出せ!!金にして出せ!!霜降り特選諭吉札にして口から出せ!!」

「いやあ~。」

二人がなかよくじゃれあっているので、僕はひかりちゃんの描いているイラストをのぞき込んだ。

そこにはコウモリの羽根が生えた男性が描いてあった。

「なにこれ?」

僕が尋ねると、ひかりちゃんはそのページをやぶき、僕に渡した。

「円海さんです。似てませんか?」

「あ~ でも背中の羽根はコウモリじゃなくて、普通の羽根にしようよ。これじゃアクマだから。」

「はあ。ダメでしょうか?」

「いやダメじゃないけどね。」

「じゃあこれで(v^ー゜)!!」

 

僕はそのイラストをもらって帰った。

若き友人には、翌年の夏に野田岩でうなぎをごちそうした。

三年後、ひかりちゃんは大学に合格して、僕はひかりちゃんと若き友人に寿司をご馳走した。

18歳になったひかりちゃんは、立派な奢られ上手な女の子になっていた。

 

 

その時、姐さんは・・・・・・

愛する息子と一緒に、ナンジャタウンで餃子を食べていた。

三年前の焼肉で、姐さん一人にあれだけ若き友人が酷い目にあわされたのに、小学六年生の男の子までつれてこられたらどうなるかわかったもんじゃない。

小学生はママと一緒に餃子で十分なのだ。

 

 

The End

NEXT 「アクマの禁術」

多分9月から


2010.08.01

アクマのピグマリオン(8)

ぼくは姐さんの箸の握り方を見たが、どうもよくわからない。

なんでグーでにぎっているのに、箸が動くのだろうか?

刺したりきったりするだけならわかるが、ちゃんとつかめているのだ。

しかもサラダの葉っぱを。

姐さんがサラダを食べ終わらないうちに、特選カルビは焼け、今度は若き友人が総ての特選カルビを僕とひかりちゃんと自分でわけた。

「ああっ!!私が注文したのにっ!!」サラダをドラえもん箸で食べながら、姐さんがせつない声を出した。

「なんですか?サラダ食べ終えて、壺カルビの野菜焼いて食べてからですからね。姐さんのお肉タイムは。」

若き友人は悔しがる姐さんを意地悪そうにみつめて特選カルビを食べた。

「うん。これはうまいね。」

僕は言った。これは某お肉屋さんの松阪牛カルビよりうまいかもしれない。

値段はこっちの方が高いけど。

「うまいですね。追加頼みましょう。」

若き友人は追加で特選カルビを二つ頼んだ。

「おお~ なんて豪気な!!」

「いやいいんですよ。円さんにはお世話になりましたから。あそこのドラえもん箸のおまけちゃんにはお世話になってないんですけどね。」

なんという礼儀をわきまえた青年なのだろうか?

ああ、やはり持つべき物は、お金をもっていて礼儀をわきまえた友人。

結局姐さんがサラダを食べ終わるのと、特選カルビがくるのはほぼ同時だった。

姐さんは特選カルビをもってきたウエイターに、サラダの皿を下げさせた。

若き友人は、特選カルビを網にのせながら「壺カルビの野菜もちゃんと食べて下さいよ。因みに生肉と一緒につけてあったから、早く肉食べようと思って半生で食べると、O-157にかかるかもしれませんよ(^-^)」と言って姐さんをからかった。

姐さんは一瞬動きをとめたが、すぐに壺をかかえて野菜を壺からどんどん取りだし、若き友人がすでに特選カルビをおいていたカルビ二枚分のスペース以外をすべて壺カルビの野菜でうめた。

「ふふ。どんなに肉が早くきても、焼く場所がなければ食べられませんわね?因みに焼かないで食べると、O-157にかかって、泣くハメになるかもしれませんわよ(≧m≦)」

そういって勝ち誇ったような笑みをうかべると、姐さんは壺にのこった野菜を壺から出し、手近にあったお皿の上に並べだした。

どうやら自分が野菜を食べる時にあいたスペースに肉をおかれないよう、焼いていない野菜を焼けた野菜の上にのせてから取る作戦のようだった。

「なんか高級焼肉店に来た意味がなくなっているような気が(-_-)」

僕は一人つぶやいた。

「そうですね円さん。やはりここは強制的にリセットするべきでしょうね。高級焼肉店にふさわしい状況に。」

「強制的にか?」僕は若き友人の顔を見た。

「そう。強制的にです」若き友人もニヤリと笑うと、いきなり立ち上がり、姐さんが壺から出して並べていた野菜の皿をもちあげ、野菜をすべて壺に戻した。

「ああっ!!ああ~っ!!ちょっとおぉ~」

姐さんは子供のような情けない声を出してドラえもん箸の先をくわえた。

「ダメですよ。こんなお行儀の悪いことしちゃ。オマケなんだから。」

若き友人はちょっと怒った顔で言った。

ショックで箸をくわえたままの姐さんの顔を見ながら、僕もきっかり網の1/4のスペースの野菜はそのままにして、残りの野菜を箸でつまんで、姐さんの取り皿に戻した。

「そうですよ。一人っ子だからお父さん、おかあさんと三人で食べてた時はこういう事も許されたでしょうけど、お友達と食事するときに、こんな事をしてはダメです」

僕も姐さんをややあきれ顔で見つめながら言った。

ひかりちゃんはハラハラした顔で、僕たち三人を見ていた。

あいたスペースに僕と若き友人が特選カルビを並べた。

姐さんは下を向いたままで、次第に目の前の野菜がこげはじめた。

ちょっと可哀想になった僕は、焼けた特選カルビをひかりちゃんや若き友人にわけるついでに、網の上にあった姐さんの野菜もとって、姐さんの取り皿においてあげた。

僕が自分の特選カルビを食べようとしたとき、ひかりちゃんがじっと母親の方を見ているのに気がついた。

若き友人はおいしそうに特選カルビを食べている。

僕が姐さんの方を見ると・・・・・・・

 

うつむきかげんで一人焼き野菜を食べる姐さんの目は、妖しく金色にひかっていた。

 

「コノウラミハラサデオクベキカ・・・・・・・コノウラミハラサデオクベキカ・・・・・・・コノウラミハラサデオクベキカ・・・・・・・」

 
食べながらもつぶやく、小さな小さな声が聞こえた。

 
僕は飽食の現代日本で、「食い物の恨みは怖い」という言葉があった事を思い出していた・・・

 

To be continue.
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)


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