円海VS人民解放軍(1)
90年代に入って、中国では人民解放軍がビジネスに進出してきた。
まあ、その辺の事情はよくわからないのだけれども、人民解放軍が養殖したエビとか、製造したインスタントラーメンとかの話があちこちから出だした訳で。
っていうことは、人民解放軍って自給自足?なんか昔日本にあった屯田兵みたいなもんなの?などと思っていたのだけれども、もちろん僕はその辺の事を詳細に尋ねたりはしなかった。
今とは違って、天安門事件の記憶もさめやらぬ頃だったし、僕のような、どちらかといえば右寄りといわれる大学を出て(まあそれは世間的なイメージで、実際は90%がノンポリなわけだけど)20代で中国にきて管理職やっているような人間が、人民解放軍に関して色々聞いているなんて話が上にまわったら、余計なトラブルを招きかねない。
まあ、それはともかく。
僕はいつものように、一階の工場事務所の来客用藤椅子にすわり、チョビがめずらしくサービスでいれてくれたお茶をすすりながら、地元紙の「検討」欄を読んでいた。
中国語で「検討」というのは、日本語の「反省」にあたる。
つまり地元の新聞における「検討」欄とは、刑務所にぶち込むほど悪い事をしたわけではない軽犯罪者が、署名入りで反省宣言をしている欄だ。
「検討。私はXX通りでナンバープレートのないバイクを走らせ、注意した公安局員を殴りました。以後決してこのようなことがないよう誓います」
「検討。私はXX通りで、泥酔して、通りすがりの人を殴りました。以後決してこのようなことがないよう誓います」
そんなことが毎日5~6軒かかれているだけの、どおってことのない欄なのだが、僕はこれがお気に入りで毎日熱心にみていた。
それ自体はどおってことないのだが、いい年をした大人が反省文をかかされたあげく「これは明日の新聞にのせるからな」などといわれているところを想像するとなんとなくおかしかったからだ。
その日の「検討」欄を読み終え、紙面をめくると、1/4面の広告が出ていた。
「射撃場」
そこには確かに「射撃場」と書いてあった。
ま、まさか・・・・
この娯楽のない街に射撃場がオープンするのかっ!?
その時丁度、中国人というよりも、額にビンディをつけたら、誰しもがインド人としか思わない通訳のダックちゃんが工場からでてきたので、僕は彼女に聞いた。
「ねえねえ。これって射撃場の事?民間人というか外国人もいっていいの?」
ダックちゃんは広告を熱心に読むと、いつものハイテンションで言った。
「あ~。そうですよ~っ。これは銃を撃てるところですね~。島のところです~」
「外国人が行っても撃たせてもらえるの?」
「あ~っ それはちょっと~っ でも大丈夫だとおもいますよ~。」
なんと!!ついに遊技砂漠ともいえるこの街にも、大人の遊び場ができるのかっ!!
「ここに電話して確認しろ!!今すぐしろ!!どんな銃があるか?外国人でも撃てるか?いったいいくらなのか?大至急だ!!」
そういうと僕は受話器をダックちゃんにわたした。
電話はすぐにつながり、ダックちゃんが色々と質問をする。どうも大丈夫そうだ。
「え~と 外国人も大丈夫ですよ~ 54式拳銃と56式歩槍が撃てるそうです。」
「歩槍?なんだそれ?小銃か?ライフル?」
ダックちゃんが日中辞典をひいて、確認すると自動小銃だということがわかった。
さて。
僕は中国向けの仕事をする前に、ちょっとだけ中東の仕事をしていたので、中東でつかわれる銃器に関しては、アメリカ製、ソビエト製、イスラエル製とそこそこの知識はあったが、中国に関しては全然しらなかった。
大体言葉もわからず、扱う商品に関しても、すべてO・J・Tというすばらしい状況だったので、とてもそういうことまで調べる時間がない。
多分ソビエト製のライセンスものだと思うのだが。
価格に関してはアメリカの射撃場に比べると高い気がしたが、5000円もあればそこそこ遊べそうな金額だった。
しかし、5000円といえば、当時の一般工員の1ヶ月分の給料だ。
会社の人間とそんなところにいったら、あっという間に「円海が射撃場にいって湯水の如き金をつかった」なんて噂が社内中にとびかってしまう。
会社を定時であがると、僕はオヤジの現地事務所へ行った。
ここにはここで、合弁会社とは関係ない、うちの会社の現地秘書がいる。
日本語はあまり話せないが頭の良い子で、非常に使いやすい。
僕は彼女に今日の現地新聞をもってこさせると、射撃場の広告を見せた。
「今度の休みの日の水曜日にここに行きたい。予約が必要かどうか確認して、つれていってくれ。」
もちろん秘書は了解するとすぐ電話をして、いく時間をその場できめた。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
水曜日。
射撃場は意外なことに山をくりぬいた地下の洞窟の中にあった。
昔聞いた噂では、この街のいくつかの小山は中に縦横無尽に洞窟がほってあり、昔は核シェルターだったが、今は一部がカタツムリの養殖やマッシュルームの栽培に利用されているということだったが、どうやらそれは本当らしい。
でも洞窟の中に射撃場っていうのは、射撃場というよりも秘密基地って気がする。
大体耳がおかしくならないか?こんなとこで銃うったら?
とりあえず最初は射撃レンジを見せてもらった。
拳銃用のレンジが3つでライフル用が2つ。
いずれも銃は射撃台と鎖でつながれていた。
ぱっとみるに、AK47とトカレフみたいだったが、当然中国製のコピーだろう。
でも鎖でつながれていると、なんか射撃って気分じゃないよなあ・・・
どちらもターゲットは人型の紙で、それぞれの距離をきくと、ライフルが50m拳銃が25mという事だった。
だらしのない軍服を着た係員が「どうしますか?」と聞くので、とりあえず拳銃から撃つ事にした。
はじめて持ったトカレフ(のコピー)は特に重いということもなかった。
うん。これなら大丈夫だ。
なんの説明もなく銃とイヤープロテクターをわたされたので、仕方なく、万が一の時に備えて読んでおいた、『テッド・新井のコンバットシューティング』という本の内容を思い出し、拳銃を構え、「柱にのったカボチャ」の位置にターゲットをおくと引き金をひいた。
反動もどうこういうレベルではなく、人型の紙がかすかに揺れたので、あたったのはわかったが、どこにあたったのかまでは見えない。
ちょっとどこにあたったか見たいというと、ターゲットをスルスルとひきよせてくれた。
ちゃんと円の中にははいっていて、最初にしては上出来な感じだ。
もとにもどして、20発ほど撃った。
再びターゲットをひきよせてもらうと、どれも綺麗に円の中におさまり、3発が中心に入っていた。
「すごい・・・一発も外れてませんよ。」
一緒に来た秘書が言った。
「フフフ。これが日本人というものなのだよ。生まれてはじめて撃ってもこの成績!!日本人の射撃能力は世界いち~っ」
とりあえずそんなことをいいながら、調子にのった僕はライフルレンジの方へ行った。
う~ん。流石に僕の視力だと50m先は見えずらいなあ~。
しかし、ライフルレンジの方には、射撃台の所に一脚があり、銃を支えられるようになっていた。
僕はそれを使い、慎重に狙いを定めて、まず20発撃った。
ターゲットを引き寄せると、全員が「おお~っ」と言った。
どの弾痕も10,9,8の中央部にあったからだ。
す、すごいぞ!!オレ!!
射撃に関しては意味もなく自信ががあったのだが、ここまですごいとは!!
僕はもう20発を弾倉につめてもらうと、今度は一脚からはずして、普通に肩打ちで、セミオート射撃をした。
フルオートはできないようになっていたからだが、これも見事に円のなかに全弾おさまった。
「う~ん。生まれて初めてなのに、ここまで見事にあたると自分でも怖くなるな。」
「本当にはじめてなんですか?」
秘書がいや~な顔をして言った。
「日本じゃ自衛隊にでも入らないと射撃なんてできないよ。」
「私もやってみていいですか?」
「どうぞ」
僕は射撃レンジを出て、レンジ内が見えるガラス張りの休憩室で、出してもらったお茶を飲んで秘書の射撃を見ていた。
秘書の身長は160センチあるかないかで、流石にそんな秘書がAK47なんかもつとミスマッチな感じがする。
つ~か、撃てるのか?
10分ほどすると秘書が標的用紙をもって、射撃レンジからでてきた。
「三発しかあたらなかったです。」
「ふ~ん」
「中国人は人殺しには向かないんです。」
「銃が向かないだけじゃない?剣とか槍とか矢では中国人同士何百万も殺してるじゃん。」
「・・・・(-_-;)」
「ま、君はライフル扱うには小さすぎるから。もっと大きくなってから練習しなさい。」
「もう24なんだから、これ以上おっきくならないですよっ!!」
「じゃあ、射撃はあきらめてお金儲けにでも励みなさい。日本人も戦後そうしたんだから」
折角できた射撃場だったが、僕はそのあと一回行っただけだった。
というのはその射撃場には、船にのっていかなければならないのだった。
で、その船着き場は僕の行きつけのホテルのレストランの前にあったので、帰りにそこのレストランで食事をすれば丁度よかったのだが、しばらくして、船着き場が離れたところに移動してしまったのだった。
ついでに言うと、銃が鎖でつながれているのが煩わしい。
そんな射撃は僕的には射撃っぽくないのだった。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
それから1年後。
いつものように僕が一階の工場事務所の藤椅子にすわりながら、チョビをからかっていると、生産の統計担当者が工場内からでてくるなり言った。
「今日の新聞見ました?人民解放軍が、植物園の中に、新しい露天の射撃場をつくったんです。」
To be continue.
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)
