憂鬱なダックちゃん(8)
「犯罪者?誰もそんな事いってね~だろ?」
僕はうつむいて泣きじゃくるダックちゃんを見て言った。
「だって、だって、中国じゃ拇印を押すのは逮捕された時だけですっ!!」
顔をあげたダックちゃんは、目から涙、鼻からは鼻水がたれまくっていた。
誰か鏡を見せてやってくれ(^_^;)
「そんなの知るか!!日本人に金借りるのに、中国でなんたらかたらなんて話はつうじね~だろうがっ!!」
流石に僕もこの訳のわからない非難にはカチンときた。
「だって!!だって!!」
「だっても糞もね~んだ!!大体何ヶ月か前に知り合ったばかりの外国人から無利子で金借りるのに、お前が借用書に押す判子ももってこねえからこういう事になるんだろうがっ!!」
ヒーッ ヒーッ
ダックちゃんは硬く硬く目をつぶって変な声を出して泣き出した。
もちろん顔は前にもましてぐちゃぐちゃだ。
まあ、日本でも警察に捕まれば拇印は押させられるだろうが、なんだこの非難は?
僕も声を荒げているうちに段々エキサイトしてきた。
「なんだ!!私は犯罪者じゃないって!!誰も犯罪者だなんて言ってねえだろうが!!日本じゃ犯罪おかした人間は警察に指紋とられるが、普通に借用書書くときだって、判子もってなきゃ拇印おすんだ!!日本人が金貸すのに、日本の常識にしたがって書類を処理するのが、そんなに酷いことかっ!!それも元々は自分の年収以上の金を無利子、無担保で借りるのに判子一つもってこねえお前が悪いんだろうがっ!!」
ヒーッ ヒーッ
「だいたいなあ~。それくらいの事で、オレを悪く言えるほど、お前の周囲はいい人だらけなのか?お前が夜も寝られないで困っているときに、金貸してくれるっていった中国人がいるのか?」
ヒーッ ヒーッ
「ヒーッじゃねえよっ!!いるのかいないのかきいてるんだよっ!!」
「いませんよお~(>_<)」
「いねえだろうがボケ~っ!!同じ同胞の中国人がしてくれないこと、してくれる日本人が、酷い人間なのかどうか答えてみろやっ!!」
ヒーッ ヒーッ
『じゃあ、お前の姉ちゃん達はどうなんだ?てめえの息子の問題だろ?お前がどれほど姉ちゃん達に世話になったかしらんけど、だからといって、月給600元で働きはじめた妹に、いきなり一ヶ月で1万元つくれって毎日押しかけてくる姉が俺らより優しいのかっ!!てめえの息子の問題なら、まずてめえが努力して、その上で「困ってるんで余裕あったら少しお金貸して」というのが普通だろっ!!』
ヒーッ ヒーッ
「ヒーッじゃねえよっ!!そういう非常識なお前の姉どもとくらべて、困ったのみかねて、3ヶ月前に働きだしたお前に何の恩もねえのに、ポンと金貸してくれる俺らは、お前がそうやって泣いて抗議するほど酷い、鬼のような人間か?日本鬼子とでもいうんかいっ!!」
ヒーッ ヒーッ
「お前は姉に恩があるから、なんとか金をつくりたい。俺らはお前に何の恩もないのに、お前が困っててかわいそうだから金つくって貸してやる。お前と俺らとどっちがいい人なんじゃボケ~っ!!」
ヒック ヒック ヒック。
「大体お前の事を犯罪者だと私が思っているとしてだなあ~。犯罪者に金貸す奴がどこにおるんじゃ!!」
ダックちゃんは次第に泣きやんだ。
そして4枚の借用書に黙って拇印を押した。
押した後、またなきじゃくり、泣きやむと1万元を抱えて帰っていった。
ドアを閉めて秘書がいった。
「なんで担保も利子もなしでお金借りられるのに、ああやって泣いて騒がなきゃならないんでしょうねえ?拇印おすのがイヤなら、一端帰って判子もってくればいいのに」
知るか!!そんなこと。
私がききたい。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
翌日。
僕はヨシさんに、ダックちゃんが拇印を押した借用書を渡すついでに昨日の事をそのまま話した。
「ぎゃはははは。ダックの奴、そんなことで大泣きしたのかよっ。きっと汚ねえ泣き顔だったんだろうな。」
「せっかくいいことしたつもりなのに、すっごくイヤな気分になりましたよ。」
「しょがねえな。かっペのやることは。」
「でもあれだけの金貸すのに、判子もなしって訳にはいかないでしょ。」
「そりゃそうだ。判子なきゃ拇印おさせるのは当然だわな。っていうか日本人なら判子忘れたから拇印でいいですか?って自分から聞くけどな。」
「でしょ?それが犯罪者扱いされたって大泣きですよ?いくら習慣が違うっていったってそりゃないでしょ?」
「まあ大体あいつは日本のお客さんにホテルでの食事に俺らと一緒に来るようにいわれて、ピンクのスエット上下で行こうとする人間だからな。」
先月日本からバイヤーがきたときに、生産部の方々も一緒にどうですか?と工場長と生産管理課長、品質管理課長が誘われたのだが、通訳ということで、ダックちゃんも誘われたのだった。
出発する前に工場にきたダックちゃんはピンクのスエット上下に運動靴だった。
「お前、なんで普通の服きてないの?」
この格好でもレストランで断られることはないが、いくらなんでも日本から来たお客さんに失礼だと僕は思ったので注意した。
「普通ですよお~。大学ではみんなこれですよお~。」
「ここは大学じゃないし、日本ではスエットなんて部屋着か運動着だ。こちらが接待するときならまだしも、日本のお客様に招待されてその格好は失礼だろ。着替えろ。」
このときもすったもんだのあげく、日本にいったことのある工場長がダックちゃんに説明して普通の服に着替えさせて事なきをえたのだった。
『昔、香港の友達と食事したんですよ。で、明日中国に戻るっていったら、彼が「円はモンキーハウスに帰るのか?」って笑うんです。で、モンキーハウスってどういうこと?って彼にきいたら、お前だって中国の農村いくだろ?あんな連中モンキーと同じだろ?食って寝て糞して、為替がどうなっているかも、世界情勢がどうなってるかも全然わからないし関心もない。モンキーに毛の生えたようなもんだろ?って言われたんですけど、なんかそれが理解できるような気がしてきましたよ。』
「ははは。モンキーハウスはすげえな。香港人だから言えることで、俺ら日本人には口にできねえけどな。それにしても大学出たダックでその調子じゃ、姉ちゃん達、金はかえさねえだろうな。そうなるとまたダックの奴泣くんだろうな。」
『一応ダックちゃんが帰る時に、お姉さん達に拇印押した借用書見せて、「あたしがここまでして借りてきたんだからちゃんと返してっていっておけ!!」って言ったんですけどね。やっぱ返せないと言いだした時の相手はヨシさんお願いしますよ。僕はもうイヤですよ。』
「勘弁してくれよ!!まあ、あれだな。常識のレベルが違う連中とやっていくのは面倒だってことだな。オレは、円さんや前の社長が工場長やら生産課、品管課の連中に日本の常識教えておいてくれたから楽だけどね。」
「あ~っ!!貸さなくてもいい金貸してやって、なんでこんなにムカムカしなきゃならないんだろっ」
「そりゃ 円さんがまだ若いからさ。年食えば、世の中そんなもんだってわかってくるって。」
「そうですかねえ~。」
「そうさ。女と友達に渡した金は戻ってこないし、感謝より逆恨みをかうもんなのさ。」
戻ってこないのはまだしも、逆恨みだけは勘弁してほしいな・・・
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
一方で、姉に1万元をポン!!とだしてやったダックちゃんは、これまでのしょげぶりがウソのように元気になった。
仕事も極めて熱心で、本来なら元気なダックちゃんの姿を見て、「ああ、お金貸してあげてよかった」と思うところなのだが、そんな気分にもなりずらい。
そんなある日、ヨシさんが内線で「円さんちょっとこれねえか?」と言ってきた。
めずらしいなと思いながら二階の工場事務所にいくと、応接ソファに二代目社長が座り、ヨシさんは自分のデスクで、二代目社長からもらった日本の新聞を見ていた。
何があったんだ?
To be continue.
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)
