憂鬱なダックちゃん(6)
一週間が過ぎた夜。
ダックちゃんは目の下にクマをつくり、机にうづくまってなにやら翻訳をしていた。
チョビの話では、少しでも金をかせごうと、友人経由で翻訳を引き受けたらしい。
もちろん、ウチの会社的にはまずいのだが、うるさい事をいう連中がいない深夜の勤務だし、理由はわかっているので夜間に限り、僕も工場長も黙認していた。
「ね~ね~ダックちゃん。」
僕はダックちゃんの背中に声をかけた。
「なんですかあ~。」
目の下にクマつくりながらも、ダックちゃんは明るい声で振り向いた。
カラ元気というよりも、このテンションは変わらないものらしい。
「お姉さん達帰った?」
「え?」
「二人で、きてるんでしょ?」
「なんでしってるんですかあ~」
「私は社内の事は何でも知っているのだ。工員の誰と誰が付き合っていて、誰が誰を好きなのかまですべて知っている。」
「はははは。」
「で、一万元つくれたの?」
僕はさらっといった。
「えっ?」
「お姉さん達は子供に市内の戸籍買ってあげるのに金かせってきてるんでしょ?」
「なんでしってるんですかっ」
さすがにダックちゃんはびっくりしたようだった。
「私はなんでも知っている。キミの今日はいているパンツの色が白だということも。」
「ななな、なんでそんなことまで!!」
「簡単だ。中国の露天パンツ屋さんで白以外のパンツを見たことがないからだ(当時の話しです)」
「そ、そうですか・・そうですね・・」
「で、お金払う期限は月末までだろ?もう時間ないんじゃね~の?」
「はい・・・姉は合弁会社につとめているんだから、お金持ちだろうって言うんですけど、私のお給料は500元ちょっとだし、まだ働きはじめて数ヶ月だし、お金なんてないのに毎晩できたかできたかって・・」
すごい国だな。
家族がヤクザの取り立てより厳しく・・・
「ひどい姉だな」
「違うんです。姉たちが苦労して、私を勉強させて大学にいけるようにしてくれたんで、悪い姉じゃないんです。私は自分の甥の事なのに、頼まれても何もできないのが悔しくて・・」
そういうとダックちゃんはシクシクと泣き出した。
その時、三階の倉庫に行っていたチョビが戻ってきた。
ドアのところで、泣いているダックちゃんに気がつき僕の顔をみた。
僕が目であっちいってろと合図すると、引き返して洗濯室の方にいった。
「ヨシさんとも話したんだけど、私とヨシさんとで半分づつ出してあげてもいいぞ。」
「えっ?」
ダックちゃんが泣きやんだ。
「まあ、返す見通しがたつならだが。私はともかく、ヨシさんはあと一年くらいだからな。ここにいるのは。」
「ほ、本当ですか?」
「返せるならだ。あくまで」
「だ、大丈夫です。姉たちもがんばれば1年でなんとか・・・」
「二人で一万元でいいんだな?」
「はい。お願いしますっ!!」
「あと、他の人間には言うな。会社でこんな噂が拡がったら、社内だけでなく、管轄局でも話題になって、日本側から派遣されてる私やヨシさんは関係ないけど、お前はここにいずらくなるぞ。」
「は、はい」
「それから返済期限入れた借用書はとるからな。金利はタダにしておいてやるけど。」
「は、はい。わかりました!!」
そのときチョビが戻って来た。
「今日は早退していいから。お姉ちゃん達に言ってこい。そうしないとまた今晩も寝させてもらえないぞ。」
ダックちゃんは事務所に入ってきたチョビに早退する旨を告げると、走って出て行った。
「お金出してあげることにしたんだ。」
チョビが僕の顔を見て言った。
「ヨシさんと半分づつ貸してあげることにした。」
僕はちょっと考えてからチョビに言った。
この話は、多分ここだけの話で終わらない。
僕だって社内の事は従業員の恋愛沙汰から幹部職員の不倫まで把握しているが、中国側は僕以上の情報網で社内の動きを追っている。
ダックちゃんが口を割らなくても、あれだけ憂鬱な顔をして、毎日お姉さんに金なんとかしろと言われてたのが急に元気になったりすれば、当然寮住まいの連中は気付く。
ダックちゃんにしてみれば、ここは地元ではないから、一万元ものお金をなんとかしてくれるのは日本人くらいしかいないのだった。
だとすると何人もの人間を経由して、変な話しになって局長に報告がいくより、チョビから直接に情報が行っていた方が良い。
18の時から洗濯室で働いていたチョビを、中国側の要請で工場管理事務所に移すことには僕はあまりいい顔をしなかったのだが、局長に対してダイレクトに情報を送り込むルートとして確保しておくのは悪くないと判断して移動を認めたのだった。
「いい人ね~」
チョビは嬉しそうな顔をして言った。
「そう思うか?」
「思う。」
「じゃあ、ダックちゃんがお金返せなかった時は、チョビが体で返してくれてもいいから。」
チョビの顔が真っ赤になった。
「な、何いってんのよっ!!」
「返せなかったらの話だよ。それにダックちゃんとは友達じゃん。友達の為に一肌脱ごう!!大丈夫。私はいい人だから優しくしてあげるよ。」
「バ・カ・ヤ・ロ!!」
真っ赤な顔で僕をみながらチョビは日本語で言った。
その時工場の見回りを終えた、生産管理課の課長が事務所に入ってきた。
品質管理課の課長は大学を出て3年だが、生産管理課の課長は大学の助教授だった人物で、頭もいいし、大学助教授だったにしては豪放磊落な性格で、僕のお気に入りだ。
「チョビ。何赤くなってんの?」
真っ赤な顔をしているチョビを見て、ひやかすように彼がいった。
僕は彼と交代で工場を見回るべく席をたった。
生産管理課の課長にダックちゃんの早退をつげ、部屋を出る時にチョビに投げキスをした。
「大・バ・カ・ヤ・ロ!!」
チョビの日本語をききながら、僕は工場の中に入った。
生産管理課長がチョビをひやかす声がかすかに聞こえてきた。
これで早退したダックちゃんの話題より、何故か赤面していたチョビの話に、皆の関心が集まる。
一応エロい人である僕も、色々(エロエロではない)と気をつかわなければならないのだ。
To be continue.
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)
