ベルサイユに萌えて・・・・・(下)
90年代初頭の中国に突如現れたベルサイユな女は・・・
二日後、ナカタ君が北京から帰ってきた。
「いや~、美味しかったですよ。卵一杯抱いていて。北京事務所の連中は大喜びでした。」
青蟹は大好評だったようだ。
僕はあの女の事をナカタ君に話したくてうずうずしていた。
「どうしたんですか?円さん。」
「それがねえ~。凄いのが出たんだよ。」
「なんですか?」
「とびっきりだよ。」
「だから、何がでたんですか?」
僕は二日前に見た、ベルサイユな女の話をした。
「本当ですか?」
「こんな事、ウソついてもしょうがないじゃん。雪玲にきいてみたらわかるよ。本当にベルサイユなんだから。昨日も現れたっていってたよ」
半信半疑のナカタ君と僕は、一階のフロントへ向かった。
まだ早い時間なので、雪玲と、小呉(ショウウー)さんの二人がフロントにいた。
「ナカタかえってきたのね」小呉さんがいった。
小呉さんは、呉なにがしという名前だが、フロントのマネージャーも呉という姓なので、僕等はマネージャーの呉さんを呉幹部。こちらの呉さんを小呉さんと読んでいた。
このころ、外国人の泊まるホテルでの仕事は地元の女の子達にとっては花形で、勤めている女の子達は、誰もがたいてい気だてもよく、仕事もきちんとできる子が多かった。
「うん。雪玲」
「あなたねえ、帰ってきたのはいいけど、他のお客さんの迷惑になるようないたずらばっかりしてないでよ。」
雪玲は時にゴリ押しをするナカタ君が苦手だった。
「何の話?」ナカタ君はちらりと僕の顔を見た。
もちろん僕はそれを無視して、雪玲に話しかけた。
「ナカタにさ~。この前のドレスの女の話したけど信じないんだよ。雪玲からもウソじゃないっていってあげてよ」
「あ、あたしも昨日見た!!あんなヨーロッパの貴族が着るような服、生まれて初めてみちゃった」
小呉さんがいった。
「ほらね」
僕がナカタ君に言うと、彼もようやく信じたようだった。
このころの僕に、雪玲や、小呉さんまでも巻き込んでナカタ君をひっかけるだけの中国語力がないのは、彼が一番良く知っていた。
「どんな子なの?」
「え~とね、背が高いから多分北の方の子だと思うわ。吉林とか、黒竜江省とか。言葉もそんな感じだし。」
「美人?」
「きれいっていえばきれいよね~」
小呉さんと雪玲が目を見合わせて言った。
「でも鼻が黒いんだよね。っていうか鼻の穴がだけど」
そう、ベルサイユは長身でそれなりに美人といえたが、別に豚っぱなって訳でもないのに鼻の穴の黒さが妙に目立った。
「それって、鼻毛がモジャモジャなんでしょうか?」
ナカタ君が僕の顔を見て言った。
「さあ~?特に鼻が上向きって事もないんだけど、なんか鼻の穴が目立つんだよね。」
「鼻の穴がモジャモジャということは、下も・・・・」
そう日本語で言うと、ナカタ君はいたずらっ子のような笑いをした。
ナカタ君の良いところは、エロネタで笑っていても、子供がいたずらを楽しんで笑っているような所があり、下卑た感じがしないところだった。
「噂をすれば・・・・お待ちかねの女の子が来たわよ」
エントランスに着いたタクシーを見ていた雪玲がいい、僕等もふりかえってエントランスを見た。
電動のガラスのドアが開いて入ってきたのは、二日前と同じドレスを着たベルサイユだ!!
階段から中二階を経て、三階のディスコへ向かう彼女をナカタ君はじっと見ていた。
「本当だ。僕も中国は学生時代と今回で、二年間留学しているけれど、あんなドレスを着ている中国人ははじめて見た」
「だからベルサイユだっていったじゃん」
「たしかに。たしかにあれはベルサイユだ。」
「なかなか美人でしょう?」
「うん。確かに鼻の穴が黒いけど」
僕は笑った。
「でも、彼女はあんなドレス何着ももってるんですかねえ?」
「さあ、こないだ僕が見たときは同じドレスでした」
「ねえねえ、彼女戻って来たわよ!!」
小呉さんの声に中二階を見ると、何故かベルサイユがドレスをゆらしながら階段を降りて来るところだった。
そして、フロントの方へ歩いてくる。
僕とナカタ君は、雪玲のほうに体をむけながら、思いっきりの横目でベルサイユを見ていた。
フロントの前にやってきてベルサイユに、小呉さんが「何かご用ですか?」と尋ねた。
「長距離電話をかけたいの」
その彼女の声を聞いて、僕とナカタ君、そして雪玲は顔を見合わせた。
「ではあちらのフォンブースをどうぞ。終わった後、こちらで料金を計算して精算してもらいます。」
ベルサイユはフォンブースへいくと、電話で話し出した。
「うっ・・・」
小呉さんをのぞいた僕等三人は笑うのをこらえるので精一杯だった。
顔には似つかわしくない、すさまじく野太い声なのだ。
その衣装に見合うだけの品位のかけらもない、カエルが鳴いているような声だ。
彼女はフロントで会計をすませてディスコへと戻った。
ディスコでロココ調ドレスというのも考えてみれば凄い話だが、この手の仕事のおねえさんがディスコで踊りまくっているということはない。
隅っこの暗いブースに何人かで陣取って、客の見定めをしているのが普通だ。
「やっぱり黒竜江省でした」
小呉さんが言った。オペレーターからまわってきた請求でわかったのだろう。
「でも凄い声だよね。黒竜江省の女の人ってみんなあんな声なの?」
僕はナカタ君に聞いた
「いや、そんな事はないと思いますよ。っていうか、話し方も品がないなあ~」
小呉さんも雪玲もうなずいた。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
「どう思います?」
僕の部屋のソファに寝ころびながらナカタ君が言った。
「どうって?」
「ベルサイユですよ」
「ああ、ベルサイユね。私は自分の鼻がまるっこいのに軽くコンプレックスがあるから、きれいな鼻か、かわいらしい鼻の女の子にしか興味ないからな~。ああいう風に鼻に妙なインパクトのある子はちょっと」
「そんな問題じゃないでしょ?問題はベルサイユファッションですよ。ああいうロココ調の服の女性とやったことあります?」
ナカタ君が真剣な顔で言った。
「あるわけないじゃん」
「う~ん。なんでそこで終わるかなあ~。男ならあのロココ服をきせたまま後ろからスカートめくってやってみたいとかおもわないんですか?」
僕はちょっと考えてみた。
なかなかいいかも・・・・
だが想像の中で後ろからスカートをめくりあげた女性がふりかえると、顔には底なし沼のように真っ黒な鼻の穴が・・・・・・
「いや、やっぱりあの鼻では・・・・」
「はあ~」
ナカタ君はため息をつくと、立ち上がり部屋のドアをあけた。
「僕は絶対やってみたいな」
そういうとドアを閉めて出て行った。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
翌日ナカタ君は部屋には遊びにこなかった。
その翌日になって、お風呂を終えて寝ようとしていた僕の部屋がノックされた。
誰だ?
僕がチェーンをつけたままドアをあけると小呉さんと制服を着た公安局員がいた。
「円さん。公安局の立ち入り検査なの。一人なのはわかってるけど、確認だけさせてくれる?」
僕はドアをあけて、とりあえず公安局員に敬礼して「ご苦労様です」と声をかけ、協力的にふるまった。
海外では警官に非協力的にふるまってもろくな目にあわない。
向こうも外国人ということで緊張しているからとりあえずこちらに敵意がないということがわかれば、余計な物をひっくりかえされなくてすむのだ。
特に問題になるものはないが、スーツケースの中には香港で仕入れたノーカットのプレイボーイやハスラーが入っていた。
公安局員は他に人がいないのを確認すると、すぐに出ていった。
僕は小呉さんを呼び止めた。
「おね~ちゃん達のガサ入れ?」
小呉さんはうなずいた。
廊下の窓からエントランスを見ると、バスがとめられている。
僕はTシャツに短パンのまま、フロントに降りた。
フロントにいた雪玲が「何しに来たの?」といいながらニヤニヤしている。
「いや、なんかここにいると、いいモノが見れる気がしてさ」
そういっていると緑色の公安局の制服につれられて、7~8人の夜の姫君達が中二階にあらわれた。
その中にはベルサイユもいた。
もちろんいつもの白いロココ調のドレス姿だ。
ベルサイユを含む女性達は、そのまま公安局のバスにのせられてどこかにつれていかれた。
それ以来、ベルサイユの姿を見ることはなかった。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
それから数日後。工場の見回りを終えて、管理室のソファで一息ついている僕の所へナカタ君がやってきた。
なんかポケットにつっこんだ手を動かしている。
「何してんの?」
「え?いや、別に・・・・」
その時、デスクで現地の新聞を読んでいた工場長がいった。
「売春婦ガサ入れ。137人検挙だって」
「それ、おれの部屋にも来たよ。公安局」
「よかったですね。つかまらなくて」
「やってないっつーの!!」
そういうと工場長は舌を鳴らしていった
「検挙されたうちの97%に淋病や梅毒などの性病があったそうです。大丈夫ですか?」
「おれは中国人童貞だから大丈夫。国粋主義者なんだ。」
僕はナカタ君を見た。
「な、なんですか?」
「いや、なんか股間をボリボリしてた気が」
「そんなことないですよ。変な事言わないで下さい!!」
「そお?」
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
しばらくしてナカタ君は急遽日本に一時帰国することになった。
僕は社長に言った。
「ずいぶん急ですねえ」
「そうですねえ。なんかあったんでしょうか?」
社長は何か言いたげな気配を漂わせていた。
「社長。僕は知ってますよ。ナカタ君ベルサイユ見て、やりたいっていってたから。」
わはははははっと社長が大笑いした。
「なんだ知ってたんですか。僕もナカタ君から相談をうけたけど淋病みたいです。毛ジラミもうつされているな。」
「ばっかだなあ~。毛ジラミはしょうがないとしても、淋病って事はナマでやったんですかねえ?」
「本人はずいぶんしょげているんで、淋病ぐらい海の男の勲章だ!!って言ってやりましたよ。」
「勲章ですか?」
「円君は相手しってるんですか?」
僕は社長にベルサイユの話を一通りした。
「いいな~。私も流石にロココ調の服来た女性とはやってないなあ~」
「そうですよね。でも公安局行けばあの服は没収されて、どっかに保管してあるだろうから、借りてきましょうか、奥さんにきせれば・・・」
「いやいや、キミも恐ろしい事いうなあ~」
「でもナカタ君はロココ服の後ろからスカートめくりあげてやったんだと思いますよ。」
僕等二人は「う~ん」といいながら黙り込んだ。
お互いにエロい想像をしているのはわかっていた。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
その晩僕は夢を見た。
灰色の囚人服を着たベルサイユが出所してくるところだった。
灰色の服を脱いだベルサイユの前に、ロココ調の例の服が出された。
ベルサイユはそれを着ると、矢吹ジョーが収容されていた少年鑑別所のような場所から、恐ろしく不釣り合いなロココファッションででていくのだった。
目が覚めると電話がなっていた。
僕は電話に出た。
「ねえ、何してるの?一緒にテレビ見ない?」
天安門事件のあと、急に地方都市にも現れた夜の姫君達を根絶やしにすることは90年代初頭でも不可能だった。
公安局は思い出したように数ヶ月に一度、一斉検挙をしたが、2週間もすれば内陸から新しい女の子達がやってきた。
田舎から出てきて、学校も満足にでていない彼女たちにとって、まっとうに働いて一ヶ月でようやく稼げる金額を、外国人(香港や台湾人を含む)相手に一晩で稼ぐことができるこの仕事は魅力的だったのだ。
性教育というものがほとんどなされていない中国においては、「気持いいことしてお金かせいで何が悪い」という日本のコギャル達のような感覚で普通の工員から夜の商売に転職する女の子が続出した。
80年代末、絶対禁止だった売春行為は90年代後半には、普通の事になっていた。
公安局のガサ入れにつかまる事のなかった場合、彼女たちの大半は、1年足らずの都会生活で、故郷に親兄弟の為の家をたてる金をためて、故郷に帰っていったのだった。
To be continue.
Uploads on coming monday!!
Maybe (^_-)
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