円海vs触手王(下)
暗闇の中に潜んでいた触手王!!果たしてその恐怖から逃げ出す事ができるのか?
いつものように、僕等は早朝から車ででかけた。
車を運転するのは霞ちゃん。
乗り込んでいるのはシュガケン、ヒトミねーさん、僕の三人だ。
30代の三人は、皆、夜型なので、早朝は激しく機嫌が悪い。
途中のサービスエリアで霞ちゃんが「朝ご飯食べますよ!!」と車を止めたが、三人とも激しくだるそうな顔で、嫌々車を降りるのだった。
元気よくキツネうどんを食べる霞ちゃんの横で、僕はダラダラと天麩羅そばを食べはじめた。
シナシナの天麩羅が激しく不味い。
月見そばにしておけばよかったな。
シュガケンとヒトミねーさんはコーヒーを頼むと、固形物を食べる僕等を信じられないといった顔でみた。
シュガケンがタバコに火をつける。
僕は天麩羅そばにドバドバと七味を入れた。
そうでもしないと食べられんがな。
「たまには伊豆とは逆の方にいくのもいいですね」
霞ちゃんが元気に言った。
「そうだね。伊豆みたいに道路が曲がっていないから、すっきりしていていいね。爽やかな感じ」
僕は道路の向こうに見える海を見て言った。
ヒトミねーさんは、恐ろしくアンニュイな顔で海を見ている。
「ヒトミねーさん。もう少しやる気出しましょうよ」
僕はやる気のない一つ年上の新潟出身女社長に言った。
「円さん。あなたは男だからわからないのよ。三十路女が外出するには、男より1時間は余計にかかるの。つまり私はあなた達より早起きしてるの。なんでかわかるわよね?」
ヒトミねーさんは「何でですか?」とツッコまれないように言った。
こういういい方をしたヒトミねーさんに「何で?」などとツッコミを入れると、悪意のあるバカ、もしくは頭の回転が悪い奴として5時間は口をきいてもらえなくなる。
「そんな~。ヒトミねーさんなら男と一緒におきても大丈夫ですよ。こないだ長老よっしーも言ってましたよ。流石新潟女の肌は違う。すっぴんでもきれいよね~って。」
僕は不機嫌なヒトミねーさんの機嫌を直すべく、長老の名前をだした。
「そうかしら?」
「そうですよ。ほっぺにさわってもいいですか?」
「さわらせてあげたいのは山々だけど、私、彼氏がいる身だから。別れたら触らせてあげてもいいわよ」
ヒトミねーさんはとたんに機嫌良くなった。
シュガケンはプカ~ッとタバコをふかし、気怠げに海を見た。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
僕等は携帯電話で、すでに現地入りして潜っている先発組と連絡をとり、直接その小さな入り江に向かった。
すでに一本目を潜り終わった先発組は、誰もいない岩場でたき火を囲んでいた。
凄い。
早朝たき火だ。
だがそのたき火の炎には、串刺しにされたタコがっ・・・・・
「喰う?」
三日前からきている先発組が、ダイビングナイフで、タコの足を切り取ると僕にすすめた。
「いや、ついさっき天麩羅そば食べたばっかなんで(^_^;)」
そのタコの足は霞ちゃんが受け取った。
荷物をおろしてから、市内にタンクを借りに車を戻すということで、僕等はたき火を離れ車に向かった。
霞ちゃんが歩きながらタコを囓っているが、まったくかみ切れなかった。
「か、カタい・・・・でもそれ以上に・・まずい(*_*)」
そりゃ海でとったであろうタコを塩もみもしないで焼いたって・・・
僕等は着替えて、機材の準備をしながら車がタンクを積んで戻ってくるのを待った。
「自動販売機ないな。トイレも。キャンプ用具が必要だったな」
シュガケンが言った。
どこの漁協も管理していない浜=自然のままの浜=トイレも売店も自動販売機すらない浜=ベンチも日よけもなく、太陽の下で肌を焼かせるにまかせるしかない浜・・・
「椅子くらいは欲しいわね。」
ヒトミねーさんも体育座りをしながら言った。
ようやくタンクを積んで車がやってきて、不満たらたらの僕等はタンクをBCに接続すると、現地のガイドの説明を受けた。
「見たとおりの小さい入り江です。水深は6m。外海に出るのはあそこだけなんで。水中ではケルプが茂っています。出たところでの水深は18メートルです」
「出ると何かあるんですか?」
僕は聞いた。
現地のガイドは一瞬目を泳がせてから小さな声で言った。
「アワビとか、伊勢エビとか・・・・」
何?
「密漁ターゲットが?」
「あっ、えっと、密漁ではありません。この入り江はどこの漁協の管理下にもないんで。密漁は犯罪です。もしここで生物を捕まえたとしても、それは採取活動ってことなんで、密漁とは口が裂けても言わないように」
僕は思わず口を押さえた。
僕等は入り江に入った。
「ではこれからエントリーします。ここにこれをおいていくので、もし、めったに見つけることができない生物を採取したときには、あがる前にここに入れて下さい。あとで、私が責任をもってひきあげます。でも、ナイトがあるんで、今回は入り江の状況を確認してもらうってことで」
そういうと現地ガイドは釣り人がもっているような青い網カゴをぼくらに見せた。
「密漁気分がもりあがりますね。採取活動ですけど」
「潜行!!」
現地ガイドは一瞬僕を睨むと水中に没していき、僕等もそれに続いた。
海中は陸と同じ岩場で、所々砂がたまっている。
水深は5m程度でずっと続いているようだった。
岩の間にはガンガゼがつまっている。
夜はこいつら岩の間からでてくるから、中性浮力をきちんととっておかないとやばいな。
サザエはそこら中にいた。
これだけいると、サザエは“めったに見ることができない生物”にはあてはまらない。
僕は岩と岩の間をたんねんに見ていった。
すると・・・・
でっかいほら貝のような貝がっ!!
僕はヒトミねーさんを捕まえて指さした。
「うっ!!」
ヒトミねーさんも驚いた。
手をニギニギして、ゲットせよとの指令を出す。
しかし、ほら貝の前にはガンガゼが3つあり、とげを張り出していて、とてもゲットできる状況にはない。
┐( ̄ー ̄)┌ お手上げさあ~
僕がジェスチャーすると、ヒトミねーさんは僕の肩についているSEALナイフを指さした。
刃渡りが24センチくらいはあるヤバ目のナイフだ。
これ使うの?
ウンウンとうなずくヒトミねーさん。
僕は肩からナイフを抜くと、ガンガゼを刃の背中で殴りつけた。
ガンガゼのとげはもろくも崩壊して、ぼくは岩の間に手をつっこみホラ貝をゲットした。
ヒトミねーさんに見せようとすると、ねーさんはすでに先に進んでいた。
ゲットを確認したら、あとは食べる事にしか興味はないらしい。
しばらくいくと、今度は岩の間にヒゲが・・・・
ヒゲ?
僕はタンクを叩くと、再度ヒトミねーさんを呼んだ。
僕はヒゲを指さした。
ヒトミねーさんがBCのポケットからライトを出して岩の間を照らした。
やはり・・・・
伊勢エビ・・・
だが伊勢エビの前にはまたしてもガンガゼがっ!!
しかし今度はガンガゼを粉砕するわけにはいかない。
そんなことをしたら伊勢エビは逃げてしまう。
幸いにもヒゲはガンガゼの手前まで出てきている。
ヒトミねーさんが僕の顔を見た。
僕は1秒間で5発の正拳を打ち込める高速の動きで伊勢エビのヒゲを見事つかんだ。
しかし、水中では僕の握力より、伊勢エビの腰の力の方が強かった。
ヒゲは僕の手からするりと抜け、伊勢エビは岩と岩の間の奥へと消えた。
僕はヒトミねーさんの顔を見た。
水中とはとても思えない早さで、ヒトミねーさんのゲンコツが僕の頭を襲った。
欲しいモノが手に入らないと癇癪をおこすのが、この女社長の癖らしかった。
ガイドの指示に従い、僕等はケルプを抜け、外海に出た。
体が僅かだがゆれる。
シュガケンは丹念に崖の部分をみていた。
そして僕等は、ナイトダイブに備えた昼のダイビングを終えると引き返した。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
夕日が落ちる直前に僕等は装備を調えて、海に入る準備を完了した。
周囲に電灯はないので、日が落ちてしまうと真っ暗になってしまう。
海に入ると、ガイドが緑とピンクのケミカルライトを網カゴに入れて言った。
「エクジットする前に、採取した生物はここに」
今度は僕は余計なことはいわなかった。
この入り江には伊勢エビがいるのだ。
ガンガゼ同様、伊勢エビも夜は岩のなかから出てくるに違いない。
うまくやれば、夕ご飯には伊勢エビの刺身と、頭の味噌汁がつく。
ぼくらは潜行を開始した。
下まで降りた僕は、目の前に釣りをするときにコマセをまく柄杓が落ちているのを見つけた。
今回に関しては潜る目的がかなり妖しいが、基本的に僕はきわめてまっとうな海を愛するダイバーである。
ダイビング中に空カンが落ちていたりするのを見れば一応拾っておく。
その時も、僕は迷わずこの撒き餌柄杓を拾った。
ぼくのキングペリカンライトは、想像以上に強く、かなり遠方まで光をとどかすことができるのがわかった。
周囲を見ると、やはり岩の上にはガンガゼが出てきている。
注意しながら中性浮力をとり、岩の間をてらしつつ進んだ。
岩の間にはサザエがいるが、これは帰りに拾っていけば良い。
今、目指すはただ一つ。
伊勢エビのみだ。
だが、ヒゲも光る目も、まったくみつからない。
すると、僕は岩と砂地の間になにやら動くものを見つけた。
僕は慎重に近づくと岩の下をのぞいた。
タコだ。ライトにてらされたタコはこちらをじっと見ている。
けっこうデカいぞ!!
僕は手にもった撒き餌柄杓で、ツンツンとタコの頭を何の気なしにつついて見た。
すると。タコはいきなり反転。無数の吸盤を僕に見せると、撒き餌柄杓にからみついてきたのだ!!
それもすっごい早さで!!
僕はびっくりして、柄杓をタコに押しつけるようにして振り切ろうとしたのだが、それがまずかった。
逆にタコの触手が伸びてきて、右腕にからみついてきたのだった。
やばい!!
僕はあわてて柄杓を手放したが、タコは手を離してくれない。
僕は自分の腕を引いた。
しかしタコは何本かの触手で岩に自分の体を固定し、2~3本の触手で僕の腕をがっちりとつかみ離そうとしない。
ここにいたって、僕は極めてやばい状況になっていることに気づいた。
ダイビングを始めてから、サメに喰われて死ぬことは一応覚悟していた。
しかし、まさかタコに絡まれて死ぬ事になるとは!!
その時。
一つの人影がゆっくりと近づいて来た。
ヒトミねーさんだ!!
僕は左手のキングペリカンライトでタコを照らすと、ヒトミねーさんの目を見て、レギュレーターをくわえたまま、「やばいっすよっ(>_<)!!」と思わず言った。
しかしヒトミねーさんは自分のライトでタコを照らすと、僕の顔を見てニコリと笑い、オッケー!!と合図すると闇のなかに消えた。
き、きさま・・・・・
私を見放したな・・・・・
私を見殺しにしようとしているな・・・・
僕の心の中で金色の瞳がゆっくり開きはじめた。
コノウラミ・・・・
コノウラミハラサデ・・・・
ぬわっ!!
タコの触手が手首から前腕全体に伸びてきたっ!!
ヒトミねーさんに復讐を誓っている場合ではない!!
そう、海の中では言葉が通じない。
僕が伝えたかった事。
「タコに!!タコに絡まれてます!!死にそうです!!助けて!!」
ヒトミねーさんの脳内会話。
「タコがいます。でかいでしょう?」
「わかったわよ。おっけー!!」
うを~いっ!!
俺、一人だよっ!!
夜の海で一人だよっ!!
しかもタコにつかまってるよっ(>_<)
浮上だってできないよっ!!
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
冗談事ではなく、僕はマジピンチだ。
ヒトミねーさんは先にいってしまったし、ガイド、シュガケン、霞ちゃんは、アワビを目指してヒトミねーさんの更に先にいってしまっている。
タコは腕をどんなにひっぱっても僕の事を離してくれない。
しかも手首をつかんでいた触手は、すでに腕全体にからみつき、顔にまで伸びて来そうな勢いだ。
当然体はいつの間にか岩にひっぱりこまれている。
僕はとりあえず落ち着くことにした。
水深はたかが5メートル。
呼吸をきっちりと制御すれば1時間どころか2時間だって潜っていられる水深だ。
それだけ潜っていれば誰かが助けに来てくれる。
ともかく落ち着け。肩の力を抜いて、呼吸をゆっくり。
ぐんっ!!
いきなり体が引っ張られた。
そしてタコの触手がついに肩のところまで伸びてきた!!
体の力を抜き、呼吸をゆっくりにしたために、タコは「こいつ弱りやがった!!」と思い、一気に攻勢を強めてきたらしい。
やばい!!
マジやばい!!
仲間が来るまで待機作戦は、あくまでレギュレーターをくわえていての話だ。
このまま触手が顔にまで伸びて来てレギュレーターをむしりとられでもしたら、冗談抜きで水深5メートルで溺死してしまう。
死んでもタコが吸着していてくれれば、「ああ、円君タコに襲われて死んじゃったのね」と原因もわかり、まだ救われるというもの。
しかし僕の死体からタコが離れてしまえば、「なぜ水深5メートルのところで・・」と不思議がられ、しかもバカダイバー呼ばわりされるに違いない。
ああ、せめてグローブだけでもはずしていれば、吸盤の後が残ってバカダイバー呼ばわりだけはさけられるのに・・・・
その時、僕の右の頬に、ヒラヒラと触れるものが・・・
やばいっ!!
マジ、肩を越えて触手が顔に迫ってきている!!
本当に殺されるぞ!!
僕は自分の腕に巻き付いている触手を見た。
思ったより太い。
そっか。
タコめ!!
腐れダコめ!!
このオレ様になめたマネしやがって!!
海の生物を傷つけてはいけないというダイバー精神を守っていれば、いい気になりやがって!!
僕は左手でもっていたキングペリカンライトを砂地にゆっくりおいた。
そして左の肩につけているSEALナイフを左手でゆっくりと抜いた。
ははははっ!!
後悔しやがれ!!この豚ダコ!!
僕は右手に絡んだタコの触手を自ら掴むと、ナイフの刃先を腕とタコの触手との間にねじ込んだ。
岩の間からキングペリカンライトの強力な光に照らされたタコの目が見えた。
地獄の痛みにのたうちまわりやがれっ!!
僕はナイフの刃先を触手にむけてたてると、力づくで押し、のこぎりのように挽いた。
すごい勢いで視界が遮られて行き、僕の右手からスルスルと触手が抜ける気配がした。
僕は光るライトを掴むと、思いっきりフィンキックしてその場を離れた。
触手王は去った。
僕はエアの残量をチェックした。
80。
深度5メートルの海底をサザエを探してうろつきまわるには十分な量だ。
僕はコンパスを見て、ケルプの方へと向かった。
すぐに4本のライトの光跡が見えて来た。
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
その晩、僕等はサザエご飯を食べ、サザエの壺焼きを食べ、シュガケンが三個もみつけたアワビの刺身を食べてお腹一杯になった。
すると今度は舟盛りが出てきた。
「もう食べられないよ~」
「すげえ!!まだ舟盛りがでるのかよ!!」
テーブルにおかれたのを見ると、すべてサザエの刺身だった。
「サザエいらない」
「二きれ食べれば十分だね」
「でも、これとったの私たちですよ」
僕等は別の宿にいる先発組にサザエの刺身を押しつけることにした。
どうせ奴らは夜通し飲むのだから、おいておけば酒の肴に誰かが喰うに違いない。
霞ちゃんを先発組へのお使いに出してからシュガケンが言った。
「やっぱその日喰う分だけとらないとダメだな」
「そうですね。きっと古代の人達は、その日必要な分だけを自然からの恵みとしてとってたんでしょうね。多く取って、保存しておくということを人間がするようになってから、“自然の恵み”って感覚は無くなっていったのかもしれませんねえ」
(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)(-_-)
それから何年かして、うちの会社の税理士さんに聞いたのだが、子供の頃、戦後間もない瀬戸内海で素潜りで魚をとってあそんでいた彼らにとって、一番恐ろしいのがタコだったという。
「あれはさあ、素潜りでからみつかれると致命的なんだよね。だから僕等は布つけたヤスをもってて、タコみつけたら必ず離れたところからヤスを突き立てたのさ。それであとは海面から布を水中メガネでおいかけていて、砂地に出てきたら引き上げる。岩場ではタコが足ふんばっちまって、絶対とれないからね。でも、それ知らない友達が岩場のタコを手づかみで取ろうとして、2人くらい死んだな。小さくても力強いからねえ。素潜りだと30秒つかまったらダメだよ。」
タコは知能も高い。
人型をしてないからといって、下等動物と侮らないように。
The End
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)
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