長老よっしーの受難(上)
本人の許可を得て書く、勇敢な昭和一桁世代の物語。
長老よっしー
70歳を越えて、現役ダイバー。現役シンクロナイズドスイマー。現役クロスカントリースキーヤーを貫く、日本一元気なばあさんである。
長老と知り合ったのは8年前のお盆。
一週間前に中国出張から戻った僕は、お盆休みと言っても何もすることがなかった。
そんなとき、ダイビングショップから「雲見いきませんか?」と連絡がはいったのだ。
その時一緒だったのが、長老よっしー。
お盆時なので前泊ででかけ、翌日牛着岩を潜ったぼくらはボートにピックアップを忘れられて、牛着岩の手前で漂流した。
漂流したといっても、目の前には海水浴場が見える。
何もしないガイドにしびれをきらし、長老が言った
「私、笛吹くわ」
ちょっとまて。それは恥ずかしすぎないか?
海水浴客の何人かは、こちらを見ているぞ?
確かにこれは漂流だが、10m程先には牛着岩があるし。
200m程泳げば岸につく。
時間は3時で日は高いし、何よりも僕等はBCジャケット装着だからおぼれ死ぬ事もない。
「自力で岸まで泳ぎましょう。そしてボート出したダイビングショップに強硬にクレームを入れ、今日と明日の分をタダにさせるんです!!」
「イヤよ。あんなとこまで泳ぐなんて」
「あなたシンクロナイズドスイマーでしょ。現役の」
「それだって60も後半なのよ(>_<)」
「関係ないだろっ!!400メートル10分で泳ぐってきいたぞ!!」
その時、僕等を運んできたのとは別のボートが近くを通った。
長老はいきなり笛をくわえると、リスのように頬をふくらませ、思いっきり吹いた。
「どうしました?」
近寄ってきたボートの船長がぼくらに言った。
「XX丸にピックアップ頼んであるのですが、忘れられているようです」
ガイドが言った。
「しょうがね~な。わかった呼んでくる」
5分後、僕等はボートにピックアップされ陸にあがった。
「ほらみなさい。私が笛をふかなければみんなまだ海の上にただよっていたのよ!!」
長老はいばっていったが、ボートのスタッフが缶ジュースを一人一本づつ配って終わりにしようとしているのを知って、不満そうな顔をした。
「ほら。私の言うとおり、自力で浜にあがれば文句の言い放題、要求の出来放題で少なくても今日の料金はタダにできたんですよ。長老が笛をふいたばっかりに、折角お客を海の上に放置するという大罪を犯したショップに制裁を加える機会を失したではないですか。」
「うるさいわね(>_<)」
「うるさくいわないから、文句いわないでください。ジュース一本で我慢するように。笛ふいた長老だけは」
「・・・・・・・」
こんな具合にして、長老と僕は仲良くなった。
気持の若い長老は、魔人ケンチとも、魔女系三姉妹とも仲良し。
アメリカにもたくさんの友人がいる長老に、メールの使い方を教えてあげると、最初は嫌がったが、海外電話料金がばっさりカットできるのがわかりメールを使いこなせる70代になった。
今では携帯メールを使いこなすようになり、女子高生並の早さで、ピコピコとメールをおくる事ができる。
僕と長老は、「アリー・マイ・ラブ」や「ER」を見ながら携帯メールのやりとりをする。
「カーターに無理チューしたい」
「あんたいくつですか?」
「歳はかんけいないでしょ。」
「そっちは関係なくても、向こうには大ありですから」
「カーターかっこいい!!」
「・・・・・・」
そのERの第10シーズンが始まるので、僕は長老にメールした。
「よかったですね。またカーターに会えて。今月末から再開です」
しかし、めずらしく長老から返事はなかった。
それから10日後。
3年ぶりくらいにそろう魔女系三姉妹と、魔女系ファンの若き友人を中華の会でひきあわせるべく外出の準備をしていると携帯にメールがはいった。長老からだ。
「入院した。今、検査をしているけど状況はかなり悲観的。あんたより先にいくわ」
悲観的ではあっても今夜がヤマとかではないらしい。
僕は中華の会が終わってから皆に言うことにして、出かけた。
だがあまりの楽しさに、言うのを忘れた(-_-)
帰ってから気がつき、各自の携帯にメールした。
「どういう事ですか?まだ70半ばでしょ?女性の平均寿命は80歳越えているんですよ」
いでっちからだ。
そんなこと言われても・・・・
結局の所、翌日会社の帰りに偵察してくることにした。
見舞いにいくと、長老は個室に入っていた。流石は米国プレイボーイ社の元副社長を友人にもつ女。
「関係ないわよ(>_<)お金が大変だから4人部屋に変えてって頼んでいるけど、アキがないんでここにいるのっ。あたしは年金暮らしなんだからね。一日2万円なんてホテルより高い!!」
「悲観的」な割には元気そうに長老が言った。
「今月に入って、急に歩くのがつらくなったのよ。最後にはポシェットすら重く感じられて、あっ!!これは円さんが入院したときと同じだ!!と思って、かかりつけの病院に電話して、救急車で収容してもらったってわけ。」
なるほど。確かに僕は三年ちょいまえに、いきなり歩けなくなって心不全と診断された。
もっとも利尿剤を飲んだだけで、翌日から元気に3階までの階段を上り下りできたのだが、「心臓の機能がこんなに低下していて、そんなことはありえない」と入院させられ、心臓カテーテルからMRIから、もう、ありとあらゆる検査をされたあげく、心臓の機能は30%しかないが、確かに普通に生活できるということが24時間心電図の検査で確認され(それまではウソをついて無理していると思われていた)6キロ痩せさせられて2週間後に退院させられたのだった。
「で、なんだったんですか?」
「胸水で、肺の大半が水浸しだった(-_-)」
「シンクロナイズドスイミングやったときに水飲んだのでは?」
「違うわよ!!病院で背中に針さされて胸水抜かれて、原因を調査したら・・・」
長老は急に口ごもった。
「心臓ですか?」
「違う」
「じゃあ、何?」
「卵巣ガン。それで、ここの病院に移されたの」
僕はマジマジと長老の顔を見た。
「でも痩せてないですよ(-_-;)」
一ヶ月前に長老とは寿司を食べにいったが、その時も痩せたという印象はうけなかったし、今も、その時とかわらない感じだ。ガンなら、痩せるだろ?普通。
「検査したら、肝臓、大腸、胃、十二指腸には転移してないんだって。消化器が無事なんで痩せなかったらしいの。逆にお腹がぽこっと出てきたんで太ったかと・・・・」
「よかったじゃないですか。卵巣だけで。去年とった、私の胆嚢以上にいらないところで。転移してないなら、外科的に卵巣きっちゃって終わりでしょ?まあ、胸水があっちゃ、麻酔医が嫌がるから、これが直ってからだろうけど。全然悲観的じゃないじゃないですか。」
「そ、そうかしら?」
「わからないけど、うちのおじいちゃんは肺ガンで死んだけど、末期のときはガリガリでしたよ。長老の今の状態みると、顔色も悪くないし、痩せてないし、もうすぐ死ぬ人にはみえないですけど。」
「でも絶対末期なのよ!!」
「そっかなあ~。すくなくとも半年は生きると思いますけど。」
「明日MRI検査をするの。で、日曜日か土曜日に先生が状況の説明と、今後の治療方針を説明するって。」
「んじゃ、検査の結果でたら連絡下さいよ。みんなには私が連絡しといてあげますから。」
「そう?じゃあ、お願いしようかしら」
「みんなに言いふらしてあげますよ。長老卵巣ガン。70すぎて三股メル友罪で、天国の旦那が卵巣をガン化」
長老はふてくされた。
この大魔女は、最近生意気にもモテはじめ、沖縄、新潟、東京にメル友をつくって、浮かれていたのだ。
しかし、年齢的に茶飲み友達を求めていたのに、東京のボーイフレンドならぬジジイフレンドは体を求めてきたので、別れたという。
東京のジジイフレンドと付き合いはじめた頃、僕と魔人ケンチは真剣に話し合った。
「長老に妊娠しないようにコンドームあげたほうがいいかな?」
「円さん。長老はとっくに妊娠しなくなってると思いますよ」
「うわっ!!ってことは生で楽しみ放題?」
「っていうか、あの歳で、濡れるのですかね?」
確かに!!70すぎの女性が性的に興奮すると濡れるのかどうかは疑問だ。
「やっぱ痛い思いをしないように、あげるならコンドームじゃなくて潤滑ジェルとかじゃないですかね?」
「うむ。さすがは魔人と言われた男。潤滑ジェルか。でもさあ、男の方はやりたがるのかな?」
「やりたいんじゃないですか?ずっと連れ添った女房ならもういいやって感じでしょうけど、つきあったらやりたいでしょう?」
「そうなのかなあ~。70歳越えてるんだよ?女性の方は」
「そんな事いったって、円さんだって何年か前、長老とプールいって、意外とハリのある太股だったっていってたじゃないですか。だったらやりたいでしょ」
「相手は68だからなあ~。男の方はたたないんじゃない?」
「バイアグラがありますよ。イヤでも立つって」
結局のところ、僕等が潤滑ジェルを長老に送る前に、ジジイフレンドは長老にせまり、振られたのだった。
「いい年して何を考えているのかしらねえ~」
「立つならしょうがないでしょ」
「知らないわよそんなの。しかも、私が『今後のおつきあいはお断りします』っていったらなんていったと思う?」
「知らないですよ」
「他に男がいるんだろ!!っていったのよ」
「はあ・・・・」
「ええ、一杯いますよっていってやったわよ。フン!!」
68の爺さんが、73のばあさんに「他に男がいるんだろ?」ですか。
すげ~な高齢化社会の日本。
それはともかく、家に帰った僕は皆に状況をメールした。
友人達は頭の中が真っ白になったと言う。
そんなとき、長老からメールが入った。
「先生の説明が日曜日にきまったんだけど、私独り身でしょ?円さん悪いけど一緒に聞いてくれない?姉や妹はもう70前後だし、聞いてもわからないと思うの。かといって、他の人にきいてもらって、あたし以上に動揺されても。円さんなら、病気にも詳しいし、何よりも自分が心不全で死にますってお医者さんにいわれても、看護婦さんとの合コン企むくらいだから、万が一私の寿命が短いっていわれても動揺したりはしないでしょ?」
「あのですねえ、誤解がないようにいっときますが、あの合コンはかまやつの元彼に、せめて新しい彼女つくってあげようと思って企画したもので、私自身の為ではないですからね。ウソだと思うならチヒロに聞いて下さい。でもまあ、いいですよ。一緒に聞いてあげますよ。しょうがない」
「ほんと?あ~よかった!!医者とマンツーマンでもう長くありませんなんて言われたらたまったもんじゃない。これで安心。夕ご飯た~べよっ!!」
こうして僕は、長老の治療カンファレンス(?)に付き合う事になったのだった。
To be continue.
Uploads on coming monday!!
see you (^_-)
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