恐怖!!鶴の湯旧道!!ーその3ー
山姥が出そうなススキの原を無事通過した僕たちの
前方12mで、その木は揺すられていた・・・・クマ?
土が固められただけの道は、前方10m程で左に
曲がっている。そして曲がり角の向こうの木が、一本だけ
不自然に揺れている。いや、揺すられているのだ。
魅入られたように、二人して揺れる木の幹を見ていた
僕等だが、いきなりスイッチがはいったように、二人同時に
片膝を地面につけて、姿勢を低くした
「クマがいるぞ・・・」僕は揺れる木の幹から目を離さずに
ささやくようにして隣の我が友に言った。
「う・・・うん。クマだな。」我が友も幹から目を離さずに
うなずいた。
ゆらゆらと幹は揺れているが、クマは見えない。道路が
曲がっている上、道の左側は崖だ。クマは道をはずれ、
崖の下のところで木を揺すっているらしい。
僕等は片膝をたてたまま、5メートルほど後退した。
まるで敵地に忍び込んだレインジャー部隊か何かの
ように。
「どうする?」僕は揺れる木から、目をはなさすずに
言った。
「どうするって・・・・引き返したら森のなかで確実に
日が沈むぞ・・・・」
僕等はようやく顔を見合わせた。我が友の顔もかつて
見たこともないくらいに真剣だ。間違いなく、僕の顔も
そうだろう。
「選択支は一つだ。クマを追い払って前に進む。」
「それしかないな。森で野宿する装備がないし、一晩の
うちに、きっとクマに襲われる。夜の森を一晩中クマから
逃げまどうのは御免だからな」
そういうと我が友はいきなり、不自然なまでにでかい声を
僕の隣で出した。
「ほれみろ円!!ススキの原にはクマも山姥も
いなかったじゃね~かっ!!この臆病ものめっ!!」
揺れていた幹の動きがぴたりと止まった。
「ほれみろ!!クマは逃げたぞ!!」と僕の隣で我が友は
得意げに言った。ちっさい声だったけど。
一方僕は、これまで以上の恐怖をおぼえていた
「あ、あのなあ、クマに俺達の存在が知られたぞ!!
逃げてくれればいいけど、崖に沿って迂回して、いきなり
側面から襲われたらど~すんだよ!!さっきまで、クマが
どこにいるか、わかってたのに、今じゃ何処にいるか
わかんなくなったじゃんかよお~っ」
我が友は、そこまでは考えていなかったらしい。
「だって、クマに襲われるのは出会い頭で、人間の声
きいたら逃げるって、おまえがさっき言っただろっ!!」
「そんな本に書いてあっただけの話、誰が信用するかっ!!」
「だったら、ススキの原での俺の努力はなんだったんだ!!
喉がかれるまで歌をうたったのは、クマに襲われる為
だったのかっ!?」
やばっ・・・・
「まて!!待つんだ。今はそんな話をしてるときじゃない。
崖側には落ち葉が一杯あった。クマは体毛をたてて、
ススキの穂が揺れる音を消すことはできても、落ち葉を
踏む音は消せないはずだ!!耳をすませ!!近づいて
くればわかるはずだ!!」
話の雲行きがヤバくなってきたので、僕は話を強制的に
中断させ、我が友の思考のすべてを、クマが落ち葉を
踏む音に、集中させるよう仕向けた。
腕の時計を見て時間を計る
1分・・・・2分・・・・・3分。
「逃げたと思うぞ」と我が友。
確かに3分の間、幹は揺れなかったし、落ち葉を踏む
音も、枯れ枝を踏んだ音もしなかった。僕等の目の前に
あるのは、夕暮れに金色からオレンジに染まりつつある、
山の風景だけだ。
「よし。行こう」と僕。
「うん。」と我が友。
二人は立ち上がり、前に進んだ。
いや、二人は立ち上がったが、前に進んだのは僕だけだ。
「どうした?」振り向き、我が友を見て僕はいった。
「いや。先に進むが、ここは円。おまえが5m、いや、
7m先をいけ」
「・・・・・・・・・・」
一瞬僕の頭が空白になった。
「おい、さっきまで、クマがいたんだぞ!!襲われたら
どうする!!」
僕は真剣に抗議した。
「だからおまえが前をいくんじゃないか。二人一緒に
襲われたら、鶴の湯を目前にして、この場で野垂れ
死にだ。どちらか一人が鶴の湯までたどり着けば、
きっと猟師がクマを退治してくれる」
猟師って・・・・そんなのいるのか?温泉宿に?
「いや、しかし・・・・それは」
我が友が、見たこともないような残酷な瞳でニヤリと
していった
「確かに鶴の湯旧道で降りたのはオレが悪い。
だから責任をとって、ススキの原でオレは5m前を行った。
それでおれの責任点はチャラだ。だから今度はおまえが
責任を果たせ。立派に親友の役に立ってみせろ」
鬼だ・・・・こいつは鬼だっ!!変態!!人殺し!!鬼畜!!
「ほら、いけよ。日が暮れると、襲い来るクマが視認できなく
なって、お前はますます危険になるぞ」
僕は泣きそうな顔をしながらも、頭の中では、必死でクマ対策
シミュレーションを組み立てた。
1.間合いはクマに思いっきり抱きついてしまうのが一番
安全クマは自分の胸をかきむしれない
2.腕をかみつかれたら、腕を抜こうとせず、相手の喉の
奥につっこんでやる。そしたらはき出してくれる。
抜こうとすれば喰いちぎられる。
3.四つんばいではしってきたら、跳び箱のように飛び越える
思いつくのは、それぐらいだ。僕には、二年間、両腕に二キロ
ずつのパワーリストをつけて訓練した、必殺の手刀打ちがある。
でも、クマには絶対きかない。牛を殺したマス・大山や熊殺しの
ウイリーではないのだ。ああ、こんな事なら、合気道や柔道で
なく、極真空手を習っておけばよかった・・・・・
「おい、日が暮れる。早くいけ!!」
僕はいつの間にか捕虜になった兵隊のような立場になっていた。
何故だ?コイツに「ついてくればいいんだよ」といわれて
温泉に来ただけなのに、なんで人っ子一人いない山奥で、
熊への人身御供に、されなければならん?
そう思いながらも、僕は全神経を聴覚に集中させ、少しずつ
前にすすんだ。曲がり角の手前5メートルくらいで、後ろを
見ると、我が友はまだ、さっきと同じ場所にいる。7メートル
どころじゃない。10メートルは離れている。
間違いなく、僕が曲がり角の向こうを確認するまで、あの
場所から動かないつもりだ。
僕はさらに前にすすみ、曲がり角の手前まで来た。
こわい。猛烈に怖い。もし、クマが僕等同様、その場を
動かずに様子を探ってたとしたら、僕とクマの距離はすでに
5m以下だ。今、この瞬間、道の左手から、クマが
襲いかかってきても、まったくおかしくはないのだ。
思わず、僕は後ろを振り向いた。我が友はやっぱりさっきから、まったく動かず、しかも僕に手振りで「行け!!行け!!」とやってる。泣きたい。マジ泣きたい。
僕は、曲がり角の手前で、荷物がはいったバックをおくこと
にした。こうしておけば、クマに襲われても素早く逃げられるし、
クマは走る僕を追わずに、このバックに気をとられるかも
しれない。完璧だ。
素手になると僕は、ありったけの集中力を耳と目に回し、
おそるおそる角を曲がった。
いない。
なにもいない!!
道だけだ!!
クマなんかいないぞ!!
これで温泉にたどり着ける!!やったあ~!!
僕はほっとして曲がり角の手前に戻り、バッグを拾って、
我が友に合図しようと道を戻りだした。
「ガサガサガサ!!」
しかしその時、僕の後ろ。道の左側の崖のなかで、
思いっきり藪をかきわける音がしたのだ・・・
本当の恐怖が、僕の背中を吹き抜けた瞬間だった
(To be continue.Uploads soon!!)
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